文: 石角友香 編:Miku Jimbo
“シェフの気まぐれ”といえば、イタリアンレストランのメニューをつい思い出してしまう。元はイタリア語のcapricciosa(カプリチョーザ)=気まぐれに由来し、意味はレストラン側の裁量で料理にアレンジが加えられるおまかせ料理とされている。が、むしろこのワードを枕にしていかに意表をついたボケをかませるか?というネタの側面も多い。とても今更な説明をしてしまったが、本稿で紹介するのは今春大学を卒業したばかりのミュージシャン、クリエーターである。シェフの気まぐれを名乗る彼はそのアーティストネームの由来を「好きなものを好きなだけ、皆さんと楽しむというコンセプトとなっております。バイキング感覚でお好きな楽曲をお召し上がりください」とし、アーティストというよりサービス業に近いホスピタリティとマインドが新鮮である。
現状、SNS上に単曲のデータや演奏動画やリリックビデオが上がっているが、サブスクリプションサービスへの登録は「サイダー」が初のようだ。YouTubeで視聴できる演奏動画は音楽ソフトで作ったバックトラックに乗せ、エレピを弾きながら歌う曲と、アコギの弾き語りで発表されている。そのいずれもが90年代J-POPの影響を感じる明快なA〜B〜サビの展開を持ち、言葉がしっかり入ってくる人懐こいメロディを持っている。「夕暮れ時」とタイトルされた曲ではどことなく小林武史を思わせるメロディだったり、コードにセブンスを挟むことで少し洒脱なイメージが付与されたり、転調によって場面転換を図ったり、シンプルながらも基本的な曲の良さで衒いのないポップスを構築している。少し甘さのある素直なボーカルも広く聴かれるポイントになっている。
まだまだ習作を重ねている最中だと思われるが、今回紹介する新曲「サイダー」では新しい試みも散見される。まず歌い出しが過去というフィルターをかけたようなエフェクトボイスから始まる意表の突き方。《飲み込んだ言葉の味》と《後悔》が重なることがわかり、物語のスタートとして掴まれる。ボーカルエフェクトが外されると走り出すようにスネアが小刻みに拍を刻み、《呼吸も忘れて夢中で追ってた》という記憶に改めてドキドキしている様子だ。
さらにシンセ・ストリングスだろうか、バイオリンのピチカートが色を添え、さらに転調も加わり、景色が広がる。2Aでようやく二人でいた時間が思い出され、どうやら冒頭の後悔の念はある特定の《君》に対するものだとわかる。その気づきと同時にビートは前進するように走り、ギターリフもピアノリフもストリングスも一斉に賑わいを増す。甘い味わいと炭酸。どちらもあっという間に消えてしまうサイダーというモチーフを用いて、伝える怖さより伝えない後悔を乗り越えていく様子がビビッドに描かれているのだ。
録り音やミックスはまだデモっぽい感触を残すものの、言葉を駆動させるアレンジに成長が見えるこの曲から、気まぐれなシェフのアラカルトは“正式メニュー”にステージアップするかもしれない。ちなみに資料によるとかなり理論的に歌詞もアレンジも構築していくタイプのシンガーソングライターと見受けたので、今後もどんなアイディアをポップソングに落とし込んでくれるのか期待したい。
INFORMATION
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Single『サイダー』
2024年6月30日(日)リリース
〈early Reflection〉
early Reflection
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early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
マンスリーピックアップに選出されたアーティストには、DIGLE MAGAZINEでのインタビューなど独自のプロモーションも実施しています。▼Official site
https://earlyreflection.com
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