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文: 黒田 隆太朗
コイブチマサヒロ(Vo. / Syn.)による初のソロ作(『HOUSEWORK』)がリリースされたのは、昨年1月のこと。MARQUEE BEACH CLUBの活動休止から1年半が経ってのことだった。踊れるリズムとポップなメロディからは彼の変わらない音楽観を見ることができたが、音の感触は随分異なるもので、ハンドメイド感のある素朴な作品になっていた。実際『HOUSEWORK』はマスタリングまでを自宅スタジオで行っており、そこには喧騒から離れたベッドルーム(≒自身の原点)から再びキャリアを始めようという気持ちあったんじゃないかと思う。
リリースから2ヵ月ほど経った頃に取材する機会に恵まれたが、マーキー休止の理由には、当時のスピード感に対する戸惑いがあったことを語ってくれた。そして、これからは改めて地に足のついた活動をしていくんだと、また、皆がじっくりと自身の活動を見つめ直せた時に再び集まりたいという旨を口にしていた。
それからさらに1年が経った2020年の4月、MARQUEE BEACH CLUBは復活した。ドラマーが欠けたものの、他の5人のメンバーは同じ顔ぶれで、アートワークも相変わらず同郷の写真家・瀬能啓太が担当。彼らのトレードマークでもある「花」をあしらったビジュアル・イメージもそのままである。初ライブも彼らの地元である水戸LIGHTHOUSEを予定するなど(先日コロナによる中止を発表)、3年弱の休息を経て、彼らは原点からゆっくりとまたその歩みを始めようとしているように見えた。いわばバンドとしてもう一度「地に足ついた活動」をしようということだろう。
復活後の彼らは、自らの門出を祝うように5ヵ月連続で新曲をリリース。最初にドロップした「follow」はリズムが強調された1曲で、『Beacon』期のTwo Door Cinema Clubをブライトな音像で蘇らせたような踊れるポップソング。
7inchでもリリースすることが発表された、「journey」と「feel」もダンサブルな楽曲で、どこかBeckの『Color』からの反響を感じさせながら、未来へと踏み出すことを綴ったリリックが歌われる。身も蓋もない言い方だが、この「明るさ」こそが今の彼らを象徴するもので、彼らはそのリリックとシンセの音色で、花束のような音楽を作っている。
そして、それはきっと彼らが予め目指していた音楽の形なのだろう。「ビーチ」であり「クラブ」である彼らの音は、やはり不特定多数の人間を受け入れるもの…ないしは様々な問題を抱えた人々が、時間を忘れて楽しむためにある。少し大袈裟な解釈をするならば、一度足を止め、それぞれが自分自身と向き合った上で再び集まった彼らは、身をもって共同体としての理想を追及しているように思う。
それにしても、MARQUEE BEACH CLUBにおけるシマダアスカ(Vo. / Per.)の存在感は本当に大きい。もちろんバンドは何が欠けてもバンドではなくなるが、中でも不可欠なチャームとなっているのが彼女の声だろう。彼女の声は人の心を落ち着かせる力と、前を向かせる力の両方があると思う。それは言葉を真っ直ぐに届ける、おおらかで伸びやかな発声によるところが大きく、とりわけ彼らの音楽がダンスとソングの両方を打ち出せているのは、このボーカルがあってこそだろう。
5曲の中でも「home」と「you」は素晴らしい2曲で、少なくとも私はこの2つの歌を繰り返し聴いている。前者は心温まるミッドテンポのインディポップで、<帰る場所があるからゆくのさ>という言葉には、これまで発表してきたどの曲よりもドラマが宿っているように思う。後者は新しい世界へと連れ出すような、シンセの音色に引っ張られていくチアフルな1曲である。そして、そのどちらにも共通しているのが、未来への眼差しだ。
リリース前に「大切な楽曲」だと告知されていた「you」では、<Everything will be alright>というフレーズが繰り返し歌われる。昨年発表された、コイブチのソロ作「GOODNIGHT」でも同じリフレインがあった。これこそが彼らが届けたいメッセージだろう。未来が少しでも明るいようにと、音と言葉で投げかけるのだ。現在発表されている5つのリリック・ビデオには、いずれもパステルカラーのキャンドルが置かれている。それは派手さはないが生活にちょっとした彩りを与える色で、MARQUEE BEACH CLUBが聴き手とどんなコミュニケーションを取りたいのか、その願いが示唆しているように思う。
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