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わずか音楽活動約2年という短さで、圧倒的なクリエイティブセンスと完成度の高いサウンドで注目を集める新進気鋭のアーティスト/マルチクリエイター・idom。兵庫県神戸市生まれ、岡山県在住の24歳の彼は本来であればイタリアのデザイナー事務所に就職予定だったが新型コロナウイルスの影響により断念、コロナ禍をきっかけに以前より興味があった楽曲制作に挑戦した。楽曲だけでなく映像やグラフィックなど、持ち前の美学とマルチな才能を発揮した作品がSNS上で話題を呼び、アーティストとして着実な支持を得ている。
2021年には「Awake」「Moment」がソニーXperiaのCMソングに「Freedom」がTikTokのCMソングに起用、2022年にはフジテレビ月9ドラマ「競争の番人」の主題歌を担当するなど彼の勢いは止まることを知らない。新世代のベッドルームサウンドから洗練されたトラップ、しなやかで壮大な世界観までも多彩に表現するアート性はどのように培われていったのか。マルチな活躍でさらなる未来に向かって歩み続けるidomに、美学の根底から多岐に渡るクリエイティビティについて話を伺った。
ー 音楽やアート、カルチャーに興味を持ち始めたのはいつ頃でしたか?
小さな頃から母親が洋楽を聴いてたり、美術館に連れて行ってくれたりしていたので物心がつくあたりには興味を持ち始めていました。自分から好きな音楽に触れるようになったのは小学2、3年生くらい。初めて買ったCDは多分Avril Lavigneの「Sk8er Boi」が収録されているアルバム『Let Go(2002)』で、親と一緒にCDショップに行ったのを覚えてます。
ー 幼い頃から洋楽を聴いてたように、自然と英語や海外のカルチャーに触れていたのですか?
セサミストリートのような海外の子供向け番組を見てたので、アンパンマンなどは全く見てなかったんです。当時は絵を描くのが好きで、そこからアートを好きになったんですよね。水彩画などを描いていて、高校生になってからは美術系の学校や画塾にも通い始め、油絵や日本画もやっていました。
ー 美術系の学校や画塾に通い始めたのが、多彩なアートに親しむきっかけだったのでしょうか。
どちらかというと平面寄りの芸術を勉強していたからそういう方面の大学に行きたいと思っていたけど、自分は芸術作品を作るより「どうすれば作品を見てもらえるか」みたいに考える方が好きだったので、グラフィックデザインを大学では勉強するようになりました。でも入ってみたらデザイン工学の方が面白そうだったので学内で転学科して、建築やプロダクト設計、機械系からUXデザインなどを学んでました。
ー 人々の感性に訴えかける楽曲性なのも、UXデザインなどを学んでいた経験が由来しているのかもしれないですね。
そうですね、「どうすればこの商品を手に取ってもらえるだろう?」というような体験のデザインや人間工学を学んでいたので。UXデザイン=ユーザーエクスペリエンスデザインとは、何かに対して興味を持つ瞬間や流れといった体験をデザインするものなので、今音楽でやっているスタンスと近いかも。他のアーティストたちも意識していることでもありますが、聴き手にとって気持ちいい音や曲を聴いてもらうために意識していることはUXデザインが原点にあります。
ーデザインを学んだ大学時代にご自身の美学を養っていったのですね。在学中はどういったデザイナーやプロダクトに影響を受けましたか?
山中俊二さんや柴田文江さんです。どちらもプロダクトデザイナーで、著書を読んだり研究材料にしたりしてました。伝統工芸品をリブランディングしている中川政七商店の本を読んで、いかにやり尽くされた技術を新しい視点へ変えていくか、技術は一緒でもどのように素晴らしく見せ発信していくかという考え方が今のUXデザインと繋がっていることに気づかされましたね。
ー そういったUXデザインの学びが現在の音楽活動にも繋がっているのでしょうか。idomは自分の軸がありながらも一言で系統を言い表せないというか、作品ごとで色が異なるイメージがあります。
同じジャンルの中で好きなものだけを作るのもアーティスト性が確立できていいことだと思いますが、もし自分がリスナーだったら毎回新たな発見があったらエンターテイメントして楽しいなと思って曲作りをしています。制作時の基礎として、自分が持つスキルの中でできる次の展開や、リスナーにとっての新しい体験を想像する感覚はありますね。
ー ちなみに大学時代はどのような音楽を聴いてましたか?
大学時代も音楽は聴く専門で自分がやろうと思ったことは一度もなかったけど、Frank Oceanが好きでした。『Channel Orange』で最初にハマって、『Blonde』ですごい衝撃を受けてしまって。今でも影響を受けてるくらい自分のベストアルバムです。
ー 大学卒業後は音楽活動ではなく、本来はイタリアのデザイン事務所に就職予定だったそうですが、当時はグローバルに活動していくビジョンがあったのでしょうか?
最終的には日本のプロダクトを盛り上げるため、新しい視点を海外で育みたくイタリアに行こうと考えていました。イタリアではミラノサローネというデザインの最高峰の展示会が毎年行われていて、デザインを学ぶには良い環境だと思いインテリアに特化した事務所に入りたかったんです。仕事に対しての価値観やスタイルも面白いし、向こうに住んでる友達もいるし地中海の雰囲気も魅力的で。
ー 壮大なビジョンがあった中、コロナ禍で断念せざるをえなかったのは残念に思います。コロナ禍でご自身のキャリアやビジョンを改めて考えることはありましたか?
残念ではありましたが、自分の中で新しいスタイルを作る時期にもなったのかなと思うようにしてます。今後の身の置き方ややっていくことを見つめ直して、周りが就職し始めたのもあって、どうやって生きていけばいいのか不安になることもありました。つきまとっていた不安からの逃避、しがらみを忘れるために音楽を始めたのもその頃です。僕が落ち込んでいた時に、音楽をやっている知り合いに勧められ、その場でDAWを買ってその場で作ったのがYouTubeで最初に投稿した曲でもあります。
ー デザイナーからアーティストに方向転換したのではなく、コロナ禍の息抜きで音楽活動を始めるようになったのですね。活動を始めた当初は、日本で改めてデザイナーを目指す予定でしたか?
当初はそう考えてました。1年くらい日本で音楽をやりつつフリーでデザインもやって、コロナ禍が落ち着いたらイタリアに行こうかなと。グラフィックや映像もできるので、同時並行しながら音楽をやっていました。
ー なるほど。活動初期は最近の楽曲に比べ宅録系のベッドルームサウンドが基調となってますが、音楽活動をやるにあたって影響を受けたアーティストや意識していた路線があれば教えてください。
R&Bやいろいろなジャンルをやってみたかったけど、その当時自分が作れる範囲の曲だと宅録やトラップ系で。SoundCloudで音楽を聴いているような人たちや雰囲気を意識していたので、活動していく中でちゃんと聴いてくれる人が増えてきたタイミングで自分のやりたいことも徐々にできたらなと思ってましたね。Justin Bieberがアルバム『Changes』をリリースしたりと、ポップスのメジャーなアーティストも含めてちょうどトラップも盛り上がっていたし、初心者でも始めやすい起源を持つヒップホップサウンドが流行った時期に活動し始めたのはタイミング的にチャンスだったのかもしれません。
ー ヒップホップ、日本語ラップではどういったアーティストの作品を聴いてますか?
自分の最初の楽曲を広く知ってもらえたのは、実はラッパーのTohjiさんがきっかけです。彼がTwitterで「自分の音源あるひとおくって ききたい なんでもだれでも」とコロナ禍が始まった頃に投稿していたツイートに自分の楽曲を貼ってリプライしたら、そのリプライ欄の中でも特に伸びていて。そういった経緯もあり、Tohjiさんの楽曲はよく聴いてます。
ー 振り返ると音楽活動を始めてから2年ほど経ちますが、活動拠点を東京にせず現在も岡山で暮らしているそうですね。岡山で暮らし始めて今は何年目になりますか?
大学への進学がきっかけで住み始めたので、今年で7年目になります。学生時代はあまり考えてなかったけど卒業後も定住していたら、今住んでる地域も面白いなと思うようになって。岡山の中でも電車が30分に1本しか来ないような田舎の方で、空気も良いし雨や風の音がよく聴こえるくらい静か。田舎だからこそできるようなことをやってる人たちもいるし、人の話し声や街の音が常に聴こえる都会より、制作環境としても身体にとっても良い環境なので気に入ってます。
ー 岡山のローカルにて1人で始めた音楽活動を、アーティストとして本格的に取り組むようになったのはどうしてですか?
最初は周りに誰も同じように活動する仲間がいなくてずっと1人でやっていたのですが、ネット上で反応をもらえるようになってたくさんの人コミュニケーションを取るようになってから趣味程度だった音楽活動が面白くなってきたんです。だんだん自分のやりたい音楽の理想も高くなった頃にプロデューサーのTomoko Idaさんと出会い、一緒に制作するようになったタイミングでXperiaのCMタイアップのお話をいただいて、本格的にアーティストとして活動してみたいと思うようになりました。
ー Xperiaのタイアップを機にデザイナーからアーティストのidomが誕生したんですね。
実はシンガーとして歌いたいと強く感じることはまだそんなになくて、アート表現全体のうちで今は音楽が中心になっているので、もしかしたら今後デザインだったり他のことがメインになって音楽がサブになるかもしれない。前作のミュージックビデオの映像も自分で作っていたり、最近は服をリメイクしていたりと僕がやれる範囲内でいろいろな表現をしていくのが理想のアーティスト像です。
ー 音楽だけでなく映像やグラフィックもご自身で手がけるなどマルチに制作されていますが、たとえば音楽の場合だと楽曲とビジュアルどちらのアイデアが先に思いつくのでしょうか?
まず頭の中で曲のストーリーが映像として浮かんでくるので、楽曲の具現化を映像にしてからグラフィックなどで絵作りのブラッシュアップしていく流れです。他のクリエイターさんと組む際は、映像やグラフィックは僕の好きな人たちに自分の曲を聴いて感じたイメージをやってもらってます。
ーご自身でもできる分野となると、考えてしまったり口を出してしまったりする場面もありませんか?
ちょっとはしちゃってます(笑)。でも基本的にはなるべくクリエイターさんの持つ感性やイメージで作品を盛り上げてもらいたいし、自分の中にはないイメージから生まれる化学反応もあるのであまり言わないように心がけています。最近一緒に制作している映像監督さんは面白いことをすごい考えてくれていて、いちファンとして作品がどう出来上がっていくのか楽しむようにもしてます。あと自分も映像をやっているからこそ相手のイメージに近づけられるか、カメラの映り方などはとても意識するところです。
ー 日本語と英語の両方で歌っているように楽曲面でもアーティストとしての見せ方が強く意識されている印象があります。日本語と英語を歌詞でどう使い分けていますか?
どうしても曲を作るときにフロウから入ってメロディをつけていくのと、普段から洋楽を聴いてるのもあって英語っぽくなりがちで、そこから日本語をどう表現していくか考えてますね。英語だとストレートな内容でも日本語ほど圧もないし、ニュアンスが伝わりやすい場合もある。日本語は表現が豊かすぎるがゆえに言葉選びの巧さがわかっちゃって、遠回しな感じだとかっこよくなるけど歌詞を考えるには難しい言語で。逆に英語はシンプルに言葉を動かせる言語だから、どちらも悩んで足し引きしながら作ってます。
ー TikTokに投稿されていた「HELLO」の制作動画ではテーマを決めてからメロディをつけていく流れでしたが、普段の制作プロセスと同様でしょうか?
自分が歌いたいテーマとメロディがあって歌詞が生まれた時はそれにコードを合わせていってます。反対にやってみたい曲調がある時はトラックを先に作ってからテーマとメロディを決めて、最後に歌詞を考えます。プロデューサーの方と組む時は偶然のような一瞬のひらめきを大事にしていて、「Awake」の制作時は1日で歌詞もメロディも出来上がったんです。考えて制作するときもありますが、ひらめきから突っ走っていく方が制作していて楽しいです。
ー 新曲「GLOW」はドラマ『競争の番人』の主題歌に起用されました。CMとのタイアップやTikTokでのヒットなど様々な経験の中で、今回の起用はアーティストとしてのターニングポイントになったかと思いますが、大きな心境の変化はありましたか?
ドラマの登場人物たちとの互換性、『競争の番人』の主人公やそのメンバーたちといかに視点が合わせられるかっていうところを意識して楽曲を作ったので、これまでずっと自分の内面や考えを表現していたところからちょっと違ったステージに初めて立ってみました。どうやって自分の視点を登場人物たちの心に合わせられるのか原作の小説を何度も読み込みながら葛藤して、最終的には彼らと自分の共通点を曲に落とし込んでます。だからこそ「ぼくらは何故 失うまで気づけないのだろう」と少し否定的な歌詞があるのも、人は傷ついた経験や痛みを知っているからこそ強くなれると思っているからです。
ー 痛みは人それぞれですがそういった経験を抱えている人は多くいますよね。ご自身の内面とも重なる点を落とし込んだとのことですが、idomさんにもそのような過去があったのでしょうか。
あまり裕福ではなかったり学生時代の苦しい経験から落ち込んでしまうこともありました。でも友達の助けや新しいことを始めてみて逆境から立ち上がろうと思ったんです。それで音楽活動も本格化しました。そういった部分が曲とリンクしています。
ー だからこそ人の気持ちに寄り添うことや、相手を意識した表現をすることに繋がってるんですね。楽曲の雰囲気としては今までの作品に比べJ-POP寄りですが、サウンド面はどういったところを意識しましたか?
僕は音数が多いサウンドより削ぎ落として洗練されたサウンドを意識して制作しているのですが、主題歌に起用されることを踏まえ壮大さや日本人の耳に合うテイストになるよう意識しました。監督さんと何度もやりとりして、僕の音楽性との塩梅も意識しながらAメロBメロの流れに少しトラップの要素を入れたりするなど、完全にJ-POPに振り切らず自分らしさもちゃんと表現しています。
ー 新曲「GLOW」で音楽性の幅を広げながらも、ご自身が歌う理由もきちんと示されたんですね。こちらの楽曲が収録されている1st EPが9月にリリースとなり、今後も様々な活躍を見据えていく中で新たに挑戦したいことや展望があれば教えてください。
まだ音楽活動を始めたばかりなので、いろんなジャンルの曲に挑戦したりもっとたくさんの人に聴いてもらえるように頑張りたい。楽曲制作では自分のアート性をいかに研ぎ澄ませるかというところにフォーカスしているので、人前に出てパフォーマンスをすることはまだあまりないのですが、これからはライブもしてみたいなと考えています。僕が好きな空間芸術ともコラボしたいし、ファッションや写真などアートの世界とも関わってみたいです。
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