Maika Loubtéが求める“音の快楽”ーー冷やかな音像に潜んだ、熱を帯びる確かな想い|BIG UP! Stars #103

Interview
DIGLE MAGAZINEが音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第103回目はMaika Loubtéが登場。

日本とフランスにルーツを持つシンガーソングライター/プロデューサー/DJのMaika Loubté(マイカ・ルブテ)がオリジナルとしては9か月ぶりの新曲「Ice Age」を2023年5月10日にリリースした。2010年前後のEDMを再解釈したようなアプローチの楽曲で、4分の間にひんやりした音像が熱いパッションへと徐々に変容していくさまが見てとれる。

マイカ・ルブテ作品には、常にそういった相反する感情の揺れが重層的に形作られてきた。自身名義の作品から多くのミュージシャンとのコラボレーション、楽曲提供に至るまでフレキシブルな活動を進めている彼女だが、表層的には心地良く軽やかな曲でも、コアな部分には燃え上がるほどの熱量がこめられているのを感じる。

今回のインタビューでは、そういった“クールで熱い”彼女の作品が完成するまでの過程を探ってみた。新曲「Ice Age」では、アートワークにAI技術を用いつつそれを曲作りに還元していくような新たな手法も採用したという。音の快楽に身を委ねながらも、時代性とシビアに向き合う彼女のパッションに迫りたい。

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

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クラシック漬けの幼少期から電子音楽に魅せられるまで

ー幼少期から学生時代までにフランスと日本を行ったり来たりする中で、音楽に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

5歳くらいの頃、そのときは日本に住んでいたんですが、近所の同い年の女の子がみんなピアノを習っていて、「マイカちゃんもやってみる?」と誘われたことで私もクラシックピアノを軽い気持ちで始めました。そこから20歳くらいまで、わりと真面目に練習し続けて。父がかなりのクラシック好きだったという家庭環境もあると思います。その一方で、私はポップスも好きで聴いていたんですよ。でも、そういう家だからポップスというのはちょっと恥ずかしいものというイメージがあって、部屋で一人で聴いていたんですね。

ーポップスはどういった曲を聴いていたんですか?

90年代なので、PUFFYスピッツです。

ー日本で、いわゆるJ-POPを聴いていたと。

そうですね。その後中学生のときにフランスに移ったんですが、クラスに歌が上手な子がいたんです。その子に曲を作って、バンドで歌ってもらおうということになって。「マイカちゃんピアノうまいから曲作ってよ」と言われてやったのが、初めての作曲。その頃はまだPCで電子音楽を作るわけではないので、ピアノで作っただけですけどね。それが人生で初めての楽曲提供です(笑)。

ー電子音楽との出会いはいつだったのでしょうか。

ピアノで曲を作っていくうちに、物足りなく感じるようになったんです。それで、マルチトラックレコーダーがついているヤマハのキーボードを親に頼んで買ってもらったりして。そこに入っているシンセサイザーの音をピコピコ出し始めたのがきっかけ。でも、本格的にハマっていったのは、20歳くらいの頃に実家の近くにあったハードオフでアナログシンセを買ってからですね。

ーアナログシンセのみで再構築したリワーク・アルバム『Lucid Dreaming: Synthesized Symphony』(2022年)を出されていますが、そのときの出会いから始まっているんですね。

そうなんです。その頃になると、段々と聴く音楽も電子音楽がメインになってきて、クラブミュージックを中心にYMO関連作品からPortishead(ポーティスヘッド)みたいなものまで幅広く聴き始めました。でも、同時にバンドの曲も変わらず好きだったんですよ。そう考えると、メロディのある曲でちょっとサウンドに工夫が見られるような音楽が、結局は一番好みなのかもしれない。

ーそれは今の作品にも反映されていますね。もちろんジャンルでいうと広くエレクトロニックミュージックの範疇に入るんでしょうけど、ポップスやロックも大きなルーツの1つにあるからこそ、メロディが大事なものとして捉えられている印象です。

そうかもしれないです。あと、もう1つはやっぱりクラシックですね。音符で世界観を構築していくような部分はクラシックのルーツが影響していると思います。

ーその後、音楽を本気でやっていこうと決意を固めた瞬間や制作への意識が変わった瞬間など、ご自身のターニングポイントとなった出来事はありますか?

最初は、クラシックのピアニストになりたかったんです。14歳くらいまでは本気で目指していたんですが、さっき話したような楽曲提供ごっこをするにつれてそっちのほうが楽しくなって。文化祭で音楽を作ったりすることもすごく楽しかったし、そういう背景もあって高校3年生で進路を決める際に「音楽の道に行こう」と決めました。

ーそのときは、楽曲提供をしていくようなミュージシャンになろうと決めたんですか?

どちらかというと裏方で音楽をやることをイメージしていましたね。引っ込み思案な性格なので、人前で歌うとかは全く考えてなかったし。

ー今、制作のアプローチはどういったプロセスが多いのでしょうか。

大きく分けて3種類のアプローチがあります。1つ目が、シンセのフレーズなどを使い最初にトラックの肝となるビートを作って、1年くらい寝かせるケース。2つ目が、シンセで音を作ってその音色を起点に制作を始めるケース。そして3つ目が、メロディや歌から入るケース。逆に、作詞から入る制作というのはないです。

ー1つ目のケースについて教えてください。1年も熟成させるんですか?

わりと1年くらい寝かせることが多いですね。時間が経って改めて聴いてから、そこに鼻歌を乗せていく。そもそも私は20代の頃、曲作りというのは「降りてくる」ものだと思ってたんですよ。むしろ、そうじゃないと純粋な音楽ではないと考えていました。でも段々と、曲作りとは手を動かせばできるものなんだと思うようになってきて。とにかく手を動かして曲を作っていくことで、そのときはほとんど「ゴミみたいだ」と思うんですけど、でも捨てずに時間を置くとなぜかその曲の良さを見出せる自分になっていたりする。作ったそばではただ単にゴミにしちゃう自分がいるんだけど、時間が経過することでそれを蘇生できる自分になっているんです。最近、それが分かるようになってきた。

ーむしろ熟成され変化していくのは、曲ではなく作者の側なのかもしれないということですね。寝かせている間に世の中の流れも少しずつ変わって、そういった影響も少なからず受けるでしょうし。

そう、世の中に合わせて自分もいろいろなインプットをすることで変わっていくと思うんですよ。

ポジティビティしか人生を乗り越えていく秘訣はないーー新曲「Ice Age」の制作背景

ー反対に、マイカさんの作品で変わらない部分もあると思うんです。というのも、マイカさんの楽曲を聴いていると、コアにある熱量みたいなものが常に感じられる気がします。一聴するといつも冷やかな印象を受けるんですが、実はそれは表層的な部分であって、中身に迫っていくと必ず熱を帯びたものがある。さまざまなアプローチをしつつもそういった重層的な構造になっている点が興味深いと思うんです。

それは言及していただけて嬉しいですね。情熱をあまり表に出さず煮えたぎらせているところはあるかもしれないです。私自身あまり社交的ではなく引っ込み思案なんですが、それは表面上のことであって、実はコミュニケーションをとりたい人なので(笑)。

ーなるほど、そういったキャラクターが作品にも表れているのかもしれないですね。マイカさんの作品は、ある種BGMとしても聴けるような心地良さとアートとしての強度という両側面を持ち合わせているように思う。そういった、表層とコアな部分とが表情を変えながらも地続きにあるような面白さを感じます。その点、新曲の「Ice Age」も序盤と終盤でどんどん表情が変化していきますね。

「Ice Age」は“氷河期を終わらせる強い日差し”といった生命力がテーマで、私が妊娠中に作った曲なんです。氷河期って厳しい時代じゃないですか。自分と世の中をそういった時期に重ね合わせて作りました。前作のオリジナル・アルバム『Lucid Dreaming』(2021年)は命の儚さを描いたものだったんですが、そこから子どもが生まれたことも大きかったのかな。「Ice Age」は童謡の「手のひらを太陽に」からインスピレーションを得て作った曲なんですよ。私たちには血潮が流れていて、何があっても太陽は昇るじゃないですか。もう、そういうポジティビティしか人生を乗り越えていく秘訣はないと思うんです。

あと、この曲は東京都が推進する「GO BEYOND DIMENSIONS TOKYO」のテーマソングとしてスタートアップ企業を応援していくという企画で作った側面もあるんですが、それに関連して企業の方たちにインタビューさせてもらったんです。それがもう、会う人会う人みなさんが非常にポジティブで。ヴィジョンがあって、それを実現するためにひたすらエネルギーを燃やしている。それにすごく力をもらいました。なので、EDMっぽいテイストはそういうところからもきています。

ー原始的な四つ打ちに、エネルギーが宿っていますね。「手のひらを太陽に」がインスピレーション源になっていると聞いて納得です。

いま次のEPを作っているんですが、そちらは『mani mani』というタイトルを付けたんですよ。古典に出てくる「神のまにまに」という表現から取っているんですけど、「自分の意思とは別のなりゆき、何かのままに」という意味で使っているんです。それをポジティブな意味で取り入れたいなと思って。この不条理な世界で、全ての力も死ぬも生きるも全部なりゆきでしかないという。だから悲観することもないしただ流れでしかないなって。何か困ったときは「まにまに」と思っていればいい。

ーそれに関係する話として、マイカさんは伝えたい思想・メッセージと音楽の関係性ってどちらが先にありますか? 

伝えたいことはもちろんあるんですけど、順番としてはまず音を触っている過程が好きですね。やっぱりシンパシーを感じる音楽家の方たちといろいろな音を出して曲を作っているのは楽しいですし。

ーなるほど。音作りの面で、今回「Ice Age」で新たに取り入れたポイントはありますか?

最近、自分のアー写用に錦絵を描いてもらったんですよ。一方で、「Ice Age」のアートワークではAIの力を借りて自分の顔を描いてもらったりもした。古から伝わる技法を使った何物にも代えがたい絵と、偶然でき上がってくるAIのランダムな絵、という両極端な方法に触れてみたんです。私はどちらに対しても肯定的なんですが、AIについてはいま人類史でも過去に類を見ないレベルで賛否両論が渦巻いているじゃないですか。

でも、「Ice Age」のほうは、自分がなんとなく描いていたプロンプト(入力条件)に対して出てきたAI作品としての自分の顔に、すごく思い入れが沸いてきたんです。「絶対これだ!」と思った。そうなると、そこに命を吹き込みたくなって、あの絵を見ながら曲を作っていったんです。そうやってできたストーリーを、ビデオアーティストのSaou Tanakaさんに共有してMVも作っていきました。あのキャラクターが太陽になっていくんです。

ーご自身を描いたAI作品に対して愛着が沸いてきた、というのは面白いですね。

錦絵も「Ice Age」のアートワークの絵も、単に私が好きになったんです。思い入れができてしまった。宗教画やシンボリックな絵に対して人がフィクションを共有していくように、AIの絵にしてもそこにストーリーを加えていくのって有効な手法だと気づいたんです。でも、それはAIに対して私が何か意思表明をするということではない。それよりも、爆速で進むAIという技術に対して私がとるべきアプローチとして、今の時代ならではの感覚を試してみたかった。私は新しいことを試していきたいので。

ーAIによって生まれたそのものよりも、それを元にいかにストーリーを付加していくかという意味で、AIとの共存を志向しているようでもありますね。

そうですね。意味づけをすることが人間の醍醐味だと思うから。

ーかつ、もう一方では自身の顔を錦絵で描いてもらうと。

それも、AIに描いてもらったからもう一方では錦絵で、という予防線を張っているわけではなく、そちらはそちらで試してみたいという純粋な欲求としてやっているんです。

枠組みから解放された自由な活動を求めて

ー先ほど「今の時代ならではの感覚」という言葉がありましたが、それは、今すでにある枠組みからどう脱するかということでもあるかと思います。マイカさんは、カテゴライズされることを窮屈に感じた経験などはありますか?

これは私がまだレーベルに所属してなかった時代の話ですが、例えば誰かのライブを観に行って、楽屋に呼ばれて関係者の方と話すじゃないですか。そうすると「事務所どこなんですか?」って必ず初めに訊かれるんですよね。そこにすごく萎えることが多くて。初対面で会って音楽や作品の話をするわけではなく、何かに所属しているということについて話すという…それってそんなに重要なのかなとずっと思っていたんです。もちろん、どこぞの誰だということから確認したい気持ちも分かるんですけど。

ー先に肩書きや役割から入らない、ということですね。

そうです。あとは、枠組みでいうともちろん性別のこともあります。例えば、女性だからミキシングについてあまり分かってないだろう、というスタンスで話されることが多い。「ここのミックスをこうしてほしい」とオーダーすると、「詳しいんですね?」って言われたりとか(苦笑)。そういった枠組みで人を見るような仕草はやっぱり多いです。

自分は日本とフランスがルーツにあって両方を行き来してきたからこそ、どこにも属せない葛藤というのもあったし、そういう意味で「枠組みセンサー」に敏感なんです。幼少期にフランスではアジア人と言われてきたし、日本では“外人”と言われてきた。今はもうあまり傷つかなくはなりましたけど。でも、自分は他人に対してそういった見方はしたくない。

ーそれは、マイカさんのコラボレーションのやり方を見ていても伝わってきます。枠組みや肩書きではなく、いつも相手の音楽に惹かれるところからコラボを進められていますよね。

私は音楽を快楽だと思っているんですよ。だから、快楽的に気分が上がるか上がらないかで物事を捉えています。コラボも同じですね。

ーその点だと、近年増えているコラボや曲提供について、ご自身ではどういった点が相手に評価されて実現していると感じますか?

歌のフィーチャリングの場合、声ですかね。曲提供だと、トップラインを作る部分。あとはシンセをいかに使うかという点なのかなと思います。

ー確かに、そのあたりはマイカさんのトレードマークとして個性が確立されてきていますね。では最後に、今後の音楽活動で予定している展開について教えてください。

秋頃にEP『mani mani』を出したら、その後に、大きいぶち上げ催しパーティーがあります。

ーぶち上げ催しパーティー(笑)?

あと、ぶち上げ催しMVもある(笑)。ごめん、ハードル上がってしまったかも! でも、気持ち的にはそのくらいの感じはあります。

ーでは、ぶち上がった先の野望は?

ツアーをやりたいですね。あとは、やっぱりアーティストとして自由奔放に振る舞いたいですよ。おばあちゃんになっても自由に生きたいし、勝手にやらせていただきたい。

ー良いですね。では野望は「勝手にやらせていただきます」ということで!

はい、勝手にやらせていただきます(笑)!

RELEASE INFORMATION

New Digital Single「Ice Age」

2023年5月10日リリース

▼各種ストリーミングURL
https://lnk.to/ML_IceAge

▼Music Video
https://youtu.be/onUulzK9otE

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

▼official site
https://big-up.style/

BIG UP!のアーティストをセレクトしたプレイリスト
『DIG UP! – J-Indie -』

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Maika Loubté(マイカ・ルブテ)

東京在住のシンガーソングライター/プロデューサー/DJ。幼少期から10代を日本・パリ・香港で過ごす。高校卒業後、ビンテージアナログシンセサイザーに出会い、本格的に電子音楽の制作に取り組むようになる。先進的なエレクトロニック・ミュージックを基軸としながら、テクスチャーをはぎ取ったオーセンティックな「歌」そのものを重要視している。

国内外のアーティストとのコラボレーションやサウンドプロデュース、CMへの楽曲提供、リミックス、ナレーションなど多岐にわたる活動を展開。「Show Me How」(2020年10月)がマツダの新型車『MAZDA MX-30』のテレビCMのコラボ曲として大々的にフィーチャーされ、自身もCMに出演した。

さらに2021年4月には、カンテレ・フジテレビ系火9ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の挿入歌「Ils parlent de moi feat. Maika Loubté」の仏詞と歌唱を担当。2022年1月には女性の持つパワーや可能性を最大限に引き出していくSpotifyのプログラム『SpotifyEQUAL』マンスリーアーティストに選ばれ、New York Times Squareの看板広告を飾った。
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