故郷に拠点を移したTomato Ketchup Boysの第二章。浜松を中心とした地方シーンの新たな動き

Interview

文: Kou Ishimaru  写:池野詩織  編:Miku Jimbo 

2024年7月に再始動した静岡県浜松市拠点の3人組ロックバンド・Tomato Ketchup Boysが、同年10月9日(水)に2ndフルアルバム『The Second Escape From The Summer Darkness』をリリースした。多様なルーツからの影響を滲ませる本作。今回はそんな最新作の話を軸に、再スタートに至るまでの経緯を伺った。

2017年、故郷の静岡県浜松市にて出会った友人同士で結成された3人組ロックバンド・Tomato Ketchup Boys。初期は東京・下北沢のインディロックシーンを中心にライブを行っていたが、2022年3月、オリジナルメンバーである石川(Ba.)の脱退を機に活動を休止。残された晴揮(Gt./Vo.)と武知(Dr.)の2人は帰郷し、再始動への準備を進めていた。

コロナ禍をきっかけに、変容していく浜松のアンダーグラウンドな音楽コミュニティと密に交流し、Live/Bar TEHOMの立ち上げにも参加した晴揮。浜松における“音楽の在り方”を思索する中、地元のコミュニティで新たなベーシスト・VVoodyと邂逅し、3人での共同生活やフルアルバムの制作を経て、2024年7月に再スタートを切る。

そして、2024年10月9日(水)に2ndフルアルバム『The Second Escape From The Summer Darkness』をリリース。本作は、これまで彼らの音楽性の軸であったガレージロック・リバイバル要素は保ちつつ、東京拠点時代のバンド仲間や日々吸収していく音楽の膨大なアーカイブからの影響を滲ませた全10曲入り。エモやポストパンク、ハードコアからソウルまで、多様なルーツを彷彿とさせるアルバムとなっている。

今回は、そんな2ndフルアルバムのリリースを記念した下北沢BASEMENT BARワンマンの翌日にインタビューを敢行。ワンマンライブの手応えや、活動休止中の浜松での暮らしについて、2ndフルアルバム『The Second Escape From The Summer Darkness』に込めた思いを伺った。

出会いは故郷・浜松で。バンド第2章の幕開け

ー東京と浜松で久々のワンマンライブをやってみて、手応えはどうでしたか。

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晴揮:

2年半空いている期間があったので、率直な感想としては「ライブってどんな感じだったっけ?」っていう気持ちが一番大きいです。

ーこれまでは熱量重視だったけど、今回はMCも少なくて内省的な印象を抱きました。

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晴揮:

周りからも「ライブが今までと違う印象」ってよく言われて。でも自分としてはナチュラルだったから「そう見えるもんなんだ。言われてみれば確かにそうかもな」みたいな気持ちです。
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武知:

浜松の友達のDJを呼んだのもあって、その二人のDJプレイで東京のお客さんが踊っている姿を見ると、地元でやっていることをそのまま東京でもできたなっていう達成感はありました。あとは、1stフルアルバム『The First Encounter Of This Odyssey』の曲をやったときのぶち上がり方とか、あの感覚はすごく久々で楽しかった。
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VVoody:

メンバーが変わってまた違うバンドになった姿をちゃんと見せられたな、と思います。感極まって泣いてるお客さんの表情を見ると、これまでのTomato Ketchup Boysが東京で培ってきたものを感じられましたね。

ーお客さんがライブをずっと待ち望んでたようなムードは、フロアからも感じました。

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武知:

活動休止してから俺らのことを知ってくれた人もちらほらいて。そういう人からも「やっと観れた」って喜んでもらえたのはすごく嬉しかったです。「お待たせしました」っていう感じだよね。
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VVoody:

僕は身が引き締まりましたね。自分にとってはBASEMENT BARでワンマンライブをこんなにすぐにやらせてもらうって普通じゃないことだと思うから。
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武知:

やっと始まったなっていう感じがしたね。

ー2022年3月の活動休止まで主に東京で活動していましたが、その後、浜松に拠点を移したきっかけはなんだったんでしょうか。

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晴揮:

活動休止するっていう話が上がってきたあたりで、全部真っ暗になるというか、先の予定が立てられなくて。それで「一回ゆっくりしよう」ぐらいの気持ちで地元に帰りました。

ー新メンバーであるVVoodyさんとの出会いはいかがでしょうか。

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晴揮:

自分らがいつも遊んでるのは、浜松のライブバーTEHOMやZOOT HORN ROLLO、クラブのoverdubだったり、レコードショップのmutant store oomalama(旧:sone records)で。そこの店長のクワケンさんがoverdubで企画しているインディロックパーティ<DISCOLITE>は、音楽の情報をキャッチする手段として大きな存在なんですよね。で、<DISCOLITE>に遊びに行ったときにVVoodyがいて。自分より少し上の年齢層の人が多い中で一人ポツンといて、群れてる感じもなく、でも楽しそうにずっと踊ってて、年齢も近そうだから気になっちゃったんです。

そこでお互い自己紹介をしたときに「バンドが活動休止しててベースを募集してるんだよね」って言ったら、VVoodyが「じゃあ明日ベース買ってくるわ!」って突然言って。どうせその場のノリだろうと思ってたら、後日本当に買ってた(笑)。

ーVVoodyさんはそれまで楽器を弾いたこともなく?

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VVoody:

そうですね。ファッション的にギターを買ったこととかはあったけど。

ーTomato Ketchup Boysのことは知ってたんですか。

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VVoody:

知ってました。でも、普段はそんな突拍子もないことをやるような人間じゃないんですよ。しかも、そのときは別に入ることが決まってるわけでもないので、なんとなく勝手にベースを買っちゃって。

ー元々、晴揮くんはどういう人をベーシストに迎え入れたいと思ってましたか。

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晴揮:

ローカルシーンって、地元への愛情みたいなもので動いてるバンドが多くて。それが良い部分ではあるけど、自分としては新しくメンバーに入る人は、ローカルに根付いた人よりもまっさらな気持ちの人のほうがいいなって思ったんですよ。バンドの理想像とかやり方が固まってない人のほうが、自分の考えを伝えやすいなって。だから、バンドをやったことがあるかどうかは二の次でしたね。純粋に新しい音楽とか、僕が「これすごい面白いんだけど」って言ったときに聞いてくれる人が良いなって思ってたんです。

ーそれでVVoodyさんがぴったりだったと。

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晴揮:

まだ武知とVVoodyは会ったことがない状態だったんですけど、東京の深夜イベントに3人で遊びに行く約束をしたんですよ。
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武知:

行きの車で初めて会いました。
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晴揮:

自分としてはその一泊の間のコミュニケーションを通して、VVoodyがどんな人なのか最後に確かめたかった気持ちはあって。会話を重ねて「こいつはバンドをやるべきだな」と思いました。もちろん音楽に対する愛情を感じたのはそうなんですけど、そのときに仕事にやりがいを感じてないとも言っていて。今の若者の未来に対する不安感というか、何も見えないことへの不安は俺らにもあって、VVoodyは少なからず自分たちと近い感覚を持っている人間だなっていう印象を受けて。それで「俺らとバンドやるべきじゃね?」って思って、完全に確信に変わった感じです。
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武知:

帰りにVVoodyと別れたあとに、晴揮と二人ですぐ「あいつにしよう」って話してましたね。

ー3人は現在同じ場所に住んでるそうですが、VVoodyさんが加入することになってからすぐ住み始めたんですか。

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VVoody:

出会って半年くらいで一緒に住んでたかな。7月にバンドに入って、12月にライブして(※別名義・Boys In The Spaceshipでのライブ)、1月に住んでる。
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武知:

活動を再開したときに、オリジナルメンバーとしてずっと活動してた俺と晴揮の感覚に、VVoodyがすぐに合わせてくるのは大変かもねって話になって。それなら試しに一緒に住んでみようかっていうことになって。
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晴揮:

俺も実家が音楽をやるのに適した環境じゃなかったのもあったし、俺らとVVoodyとの熱量の穴を埋めるために、できるだけ濃密な時間を一緒に過ごそうと(笑)。ちょうど幼馴染にそういう相談をしたら7DKのユニークな一軒家を見つけてくれたので、一緒に暮らすことになりました。

ーVVoodyさんはこれまでと人生がガラッと変わる、思い切った決断でしたね。

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VVoody:

バンドをやってみたいとは、ずっとどこかで思ってたんですよ。やっぱり音楽が好きだし。…バカですよね(笑)。25歳で仕事を辞めて、これまでやったことないベーシストになるなんて。でも、Tomato Ketchup Boysだからやってみたいと思ったところもあったんです。

キング・クルールなどソウルを昇華した「Build」

ー2ndフルアルバムの制作はいつごろ始まったんですか。

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晴揮:

1stをリリースしてから(2022年11月4日)、すぐあとに作るイメージはできていました。今作に関しては先にコンセプトが決まっていて、“森の中で何かから逃亡している”っていう画像が1stの続編として頭の中にあって。それで空想の曲目が思い浮かんで、そこに当てこむように各曲を作っていったんです。二人にも「こういうイメージで物語にしていきたい」ってコンセプトを伝えていて。

ー前は弾き語りで作っていたと思いますが、今回は?

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晴揮:

今回はGarageBandで曲を作っていきました。1曲できたら二人を部屋に呼んで聴いてもらうっていう。前はドラムとベースは完全に任せてたんですけど、今回は土台を8割方自分が考えて、ある程度楽曲の完成形に近い状態で聴いてもらいましたね。

ー先に生まれた“逃亡(Escape)”のイメージが『The Second Escape From The Summer Darkness』というタイトルにも繋がってくると。そういったイメージが思い浮かんだのはなぜだと思いますか。

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晴揮:

後々結びついてきたものだとは思うんですが、それこそ東京から地元の浜松に戻ったことだったり、あとはたとえば戦争とか、そういった世の中で起きている真っ暗になるニュースがすごく多かったことが“逃亡”に結びついたのかなと思います。最初にイメージしていた画像は、まさにアートワークのイラストみたいなもので。
2ndフルアルバム『The Second Escape From The Summer Darkness』artwork

ー最初に晴揮くんから流れやアイデアを聞かされたとき、どんな印象を受けましたか。

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武知:

アルバムのイメージ像を聴いたときには、まだあまりどんなものになるか予想できなくて。けど、晴揮がずっと俺らにおすすめしてたJ・J・エイブラムスのSF映画『SUPER8/スーパーエイト』を3人で一緒に見る機会があったんです。
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晴揮:

「俺の好きな映画を見ろ!」ってね(笑)。
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武知:

それを見たときに、今回のアルバムのイメージがなんとなく理解できた感じはありました。

ー曲目と同じ順番で作っていったんですか。

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武知:

REC自体は、先行配信した「Build」からで。この曲をStudio REIMEIでRECしたときに「アルバムをREIMEIで録るしかないでしょ!」って話になったりして。

ーということは、「Build」は「アルバムを作るぞ」ってメンバーが同じ方向を向く前に録り始めたものだと。

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晴揮:

そうですね。「Build」は、これまでのTomato Ketchup Boysの印象をガラッと変える曲を出したかったっていうところから作ったもので。それと当時、浜松に戻ってからソウルをすごく聴いてたんですよ。そこからいつもと違うコード進行を試してみたらまったく違う曲のイメージが思い浮かんで、結果的にアルバムの中で一番時間をかけて作った曲になったんです。

そのときはアルバムの他の曲がほとんどできていなくて、「Build」だけでき上がった感じで。それで「まずは一曲試しにRECしてみようか」っていうくらいの気持ちで臨んだんですけど、実際に録ってみてラフミックスを帰りの車で聴いてたときに、何か3人の中でバッと開けて見えてきたものがあって。それで「これはこのまま続けたほうが良いかも」と思って、急ピッチで制作を進めて、曲を作ってはREIMEIに持っていって録って、ということを繰り返してました。

ーそのとき聴いてたソウルミュージックはどんなものだったんですか。

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晴揮:

それぞれ年代がバラバラなんですよ。俺は王道なところで言えばCurtis Mayfield(カーティス・メイフィールド)みたいな’70年代のもので。あとはOtis Redding(オーティス・レディング)、SAM & DAVE(サム&デイヴ)、Minnie Riperton(ミニー・リパートン)とか。武知は’80年代で、VVoodyはネオソウルだったり現行のソウルだったり。
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武知:

Love Apple(ラヴ・アップル)とかね。
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VVoody:

僕はAaron Frazer(アーロン・フレイザー)はすごく好き。あと、70年代のものだけど、Darondo(ダロンド)の曲は3人で車の中でよく歌ってたりしたよね。
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晴揮:

なので、その年代の自分の好みに近いスウィートソウルとかを満遍なく聴いていたかな。でも自分たちの音楽ってまったくそういう感じでもないから、これを自分たちなりに昇華する手段ってなんなのかなと思ったときに、Alabama Shakes(アラバマ・シェイクス)とかKing Krule(キング・クルール)とか、そういう現代のアーティストが(往年のソウルを)落とし込んだ音楽が自分的にはしっくりきて。制作のプロセスとして参考にしたのは、結果的に現代のアーティストになりますね。

ー「Build」はドラムのプレイが今までの曲よりもテクニカルで、16ビートの速いフレーズが面白くて。レコーディングは大変だったんじゃないですか。

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武知:

デモを聴いたときに頭抱えました。「マジか、こいつ!やってくれたな!」って(笑)。モノにしちゃえばできちゃうんですけど。
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晴揮:

しかも「Build」が一発目だったんですよ。この3人でやるって決まってから、最初に提示した曲だったんですよね。なので余計に戸惑いが大きかったと思います。

ーちなみに、「Build」の先行配信時のアートワークは、2曲目の先行シングル「Unnamed Place」と同じテイストになっていますね。アルバムのアートワークから独立してるのはなんでなのかなと思って。

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晴揮:

シングルのほうは曲が先行していて、ジャケットのイメージがなかったんですよ。でも、ひょんなことで大学の後輩のイケガミさん(愛と生活)が連絡くれて。ジャケット制作を頼んだんです。「Build」は「建てる」って意味なんですが、ちょうどTEHOMの立ち上げの時期にできた曲ってことと、新しいアプローチを仕掛けて、いろんなことを試した曲で。「Unnamed Place」は、そうこうしていくうちにできてきた自分たちの居場所をイメージして作った曲ですね。その考えを話したときに、「“Build”では、バラバラに記号みたいな感じでパーツが並べられていて、次の“Unnamed Place”でそれが完成される二部構成にしたらどうかな」って提案してくれて。そのアイデアを気に入って、イケガミさん主導でデザインしてくれた流れです。

エモ、アンビエント、SF映画から影響を受けたコンセプチュアルな最新作

ー「Intro(Something’s Coming)」の「Something’s Coming」という声は何かのオマージュだったりしますか。

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晴揮:

スマホで自分の声を録ったやつですね。あとで気づいてびっくりしたんですけど、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に、偶然まったく同じセリフがあって(笑)。緊迫感も同じテンションで。しかも「Dungeons And Dragons」っていう曲も入れてるんですが、『ストレンジャー・シングス』の一話で「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(テーブルトークRPG)をプレイしてる少年たちのシーンがあるんですよね。そこでこの「Something’s Coming」というセリフを言ってて。もしかしたら潜在意識の中にあったのかなって思ったり。

ーこれまでの作品でもSFをオマージュしていたから、今回もきっと何かを引用してるのかなと思って。映画『ジュラシック・パーク』でも同じセリフを言ってたので、そっちかなって思ってました

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晴揮:

おそらく何かと怪物とか恐竜とか、そういったものが出てくる類のSFをテーマにしたとは思います。
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武知:

4曲目の「Walking Distance」も、それこそ映画『SUPER8/スーパーエイト』に出てくる作戦名の引用だし。

ーなるほど。「Something’s Coming」は地元が同じアンビエント作家のnihさんと作ったそうですね。

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晴揮:

彼もたまたま同い年で、TEHOMで酒飲んでたときに知り合って一晩で意気投合して。「一緒にアンビエント作ろう」みたいに話を持ちかけて、すぐやることになりました。

ー一緒に曲作りした感じですか。

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晴揮:

全部一緒にですね。森に行って「ここの場所、鳥の声が良いね」みたいなやりとりをしながら、自分たちでフィールドレコーディングして。
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VVoody:

この曲は本当にこだわってたよね。いろいろ試行錯誤して最終的にシンセ入れたり。
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晴揮:

nihが毎週末ウチに来て、俺の部屋でずっと一緒に作ってたんですけど、ああいう形のない音楽って作るのが難しくて行き詰まって、3週目ぐらいで「もう無理だ」って匙を投げそうになったんですよ。投げやりになって、セリーヌ・シアマ監督の『秘密の森の、その向こう』を一緒に見たんです。その映画が良すぎて。しかも森の中の話だったので「俺らのやりたいことってこういうことだよね!?」って感じですぐ考えがまとまって。そこから1〜2時間くらいで完成しました(笑)。

ー4曲目の「Walking Distance」から5曲目「Dungeons And Dragons」に繋がる演出は元々決まってたんですか。

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VVoody:

繋がるって最初から言ってましたね。
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晴揮:

The Stone Roses(ザ・ストーン・ローゼズ)の『Second Coming』が好きなんですけど、あのアルバムって曲間が繋がってる演出が多くて。そういうのってすごい世界観に引き込まれるんですよね。

VVoodyが最初にこのアルバムを聴いた感想としては、5曲目「Dungeons And Dragons」から6曲目「Summer Majestic」の流れで、第一部が締まるような印象だったらしいんです。それで7曲目の「Unnamed Place」からパンクのゾーンに入って二部目が始まるような。自分的にも無意識に5・6曲目で前半の畳み掛けをしようと考えてたのかなって。

ー「Walking Distance」は、ポストパンクっぽいですね。今作はポストパンクやエモからの影響も濃くて、そういう音楽的なテーマも制作前から決めていたんですか。

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晴揮:

そうですね。たくさん聴けば聴くほど、やってみたい音楽って増えるじゃないですか。たぶん一回みんなJoy Division(ジョイ・ディヴィジョン)とかDIIV(ダイヴ)とかに憧れると思うんですよね。ああいう世界観の曲を一回作ってみたいなって思って。曲の序盤はそういうテイストにして、後半からはちょっとポストハードコアっぽい展開にしてみて、自分らなりに一工夫しましたね。

ー「Message」はエモだったり、「Secret Order」もラストで激情的な展開があったりますよね。周りのバンドからの影響もあるんですか。

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晴揮:

ポストハードコアとかエモとかは、自分が音楽を聴いてきた感覚としてはそんなに多くは占めてなくて。Sportとかはめっちゃ好きなんですけど。あと、Boys In The Spaceship時代にライブに呼んでくれたANORAK!もそうだし、もう少し前になるとSUMMERMANとか、それこそBearwearと対バンしてた頃とか、その辺りのジャンルはライブの対バンを通してフィジカルで体感してたから、自分としてはインパクト大きかったんですよね。

僕らの1stフルアルバムは初期衝動的でよかったんですけど、ビートがずっと同じだったので、時間を置いて聴いたときにちょっとワンパターンだなって思って。それを変えたいのはあったのかもしれない。

ー「Boys In The Spaceship」は、別名義の頃のバンド名を楽曲タイトルにしていますが、あらかじめ最後の曲はこの曲にしようって決めてたんですか。

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晴揮:

「Summer Majestic」と「Boys In The Spaceship」の2曲は意味合いが近い曲で。どっちも曲の最後に日本語詞になるというところも含めて、歌詞を書いたときに考えたことは似ていたと思います。「Boys In The Spaceship」は、この一夏を振り返っての、僕らの短い物語の話というか。1曲目の「Intro(Something’s Coming)」から最後まで聴いてもらって「俺たちの夏はこんなんだったよ」っていう、まさにエンドクレジット的なニュアンスで。そんな心の中で思っていた言葉を最後に日本語(の歌詞)でまとめた感じです。

ー最後が日本語なのは、母国語なのもあるし伝わりやすいなっていうのもある?

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晴揮:

そうですね。あと自分の美学として、たくさんの情報を言語化するというよりは、音を重視して音楽を作ってる部分があるなって最近感じていて。なので最後の数行だけ日本語にまとめるところに美しさがあるような気もしたので、今回はそういうふうに仕上げた感じです。

東京以外の土地でももっと音楽を楽しめるように動きたい

ー制作にあたり、リズム隊のお二人はどのようなことを意識しましたか? デモからどんなアイディアを加えたのかなと思って。

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晴揮:

「Build」でスプラッシュシンバルを入れようっていう案は武知でしたね。
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武知:

デモを聴かせてもらって「なにかちょっと物足りないな〜」と思ってボーッとシャワー浴びてたら「スプラッシュ買うか!」って思い浮かんで(笑)。元々自分が持ってるタイム感とかがあるから、デモっぽく叩こうと思っても結局そうならないかなっていう感覚はありますね。結局、そういう個性みたいなものって消そうと思っても消えないものだから。
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VVoody:

スタジオに入って弾いてみると「ここはデモの感じよりも弱く弾いたほうが良いな」「ここはタイトな音のほうがいいな」という感じで、DTM上で作ったデモとは違うニュアンスで弾いたほうがしっくりくることがあって。なので、スタジオで決まっていった部分も多いです。

ースタジオの音量感で合わせたら「ここは違うな」みたいな感じですね。

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晴揮:

まず、自分もデモのドラムとベースにそこまで自信がなくて。俺自身がギターしかできないので、二人に投げて委ねたい気持ちはありました。
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武知:

あと、自分とVVoodyの二人でスタジオによく入るんですけど、アルバムの曲を渡されて「じゃあ、やってみようか」ってなったときに、そこまで言葉は交わさずにできたことは多かったですね。やりながらグルーヴ感を掴んでいくというか。
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VVoody:

感覚的に合わせていきましたね。
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武知:

フレーズはそんなに変わってないけど、グルーヴ感に関しては「俺ら二人のグルーヴ感を作ろう」という意識で。それで先にグルーヴを仕上げてから、3人で合わせていきました。
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VVoody:

使ってる音は同じでも「16ビートで弾いたほうが良いね」みたいなこともありました。
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晴揮:

逆に「Walking Distance」のアンサンブルが難しい部分とかは、二人に投げたけど考えてきてもらったやつがあんまり噛み合わなくて、デモのほうを採用したこともありましたね。二人に投げたことで、なんで自分がそのフレーズに至ったのかをもう一回理解するみたいな。それで「遠回りしてごめん」みたいなこともありましたね。

ーベースはセクションごとに歪みを調整してる感じですか。

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VVoody:

「Secret Order」や「Build」とか、前半後半で激情的になったりするところはブーストをかけたりすることはあります。「Walking Distance」だと逆にDIIVっぽい音色をイメージしたり。

ーそういうアイデアはデモの段階から入ってるんですか。

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晴揮:

デモの段階で入れてはいて。ただ、そういうニュアンスの音を試しに入れてただけで、スタジオで合わせたときに「やっぱり歪ませたほうが良いかもね」みたいな話し合いをして、オーバードライブのエフェクターを追加してみたり。そうやって相談しながら決めました。

ー最後に今後のことを聞きたいなと思っていて。次にやりたいことや予定してることはありますか。

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晴揮:

やりたいことはいっぱいある。
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武知:

よく聞かされてますね。
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VVoody:

ふとしたタイミングで来るからね(笑)。
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晴揮:

浜松に越してきた理由の中の一つでもあるんですけど、場所ってものはもうあまり関係ないのかなと思ってて。もっとワイドな視点で、いろんな動きができたらいいなって考えてますね。もちろん東京でライブはしていきたいんですけど、いろんな人が浜松に来たり、みんながいろんな場所に好きなように行けたらいいなっていうのは根底にあって。

ー具体的に実現したいことはありますか?

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晴揮:

具体的なところはまだないんですけど、自分たちの動きとしては、日本中を縦横無尽に、いろいろな場所で音楽を届けていきたいですね。目先に思い浮かぶのでいうとフェスだったり、それこそ<フジロック>みたいな東京じゃない土地でやってるフェスに出てみたい気持ちはありますし、いずれ浜松でもそういう動きができたらなって思います。

今回のリリースにあたって〈BITS & ALIENS〉(ビッツ&エイリアンズ)っていう自主レーベルを立ち上げたんですけど、それは自分の周りにTomato Ketchup Boysを大事に思ってくれるバンドがいっぱいいるなと思って。そう思ってくれてる人たちがせっかくいるから、みんなを巻き込んで何かできないかなっていうところで、その第一歩としてレーベルを作りました。だからそこをきっかけに、周りの人を巻き込んだ地方の動きとして、自分たちが浜松を中心にいろいろと動いてみようかなと思っています。
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武知:

浜松でフェスや大きなイベントを主催したいなっていうのは僕も思っていて。浜松に足を運んでもらいたいなっていうのは僕も同じ考えですね。

ーそれは、浜松にしかないものを感じているからですか。

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武知:

そうですね。
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晴揮:

浜松市自体は実は“音楽の街”と謳っていて。Yamahaの本社があったりとかするので。でも自分の印象としては、クラシックや商業的な音楽とアンダーグラウンドな音楽との間にギャップみたいなものを感じていて、そこが交わるような空間が浜松にはないなって。

実際、TEHOM周辺にいるアーティストはエキセントリックなことをしていて、実験場みたいになってるんですよ。そういうものが突然一般の人の目に触れて「あ、こういうものも音楽なんだ」っていう感覚を味わってほしいし、アンダーグラウンドにいる人たちは商業的な音楽をちゃんと知ってる上で、そこに対するリスペクトもありつつ自分たちの表現もしていて、逆も然りだと思うんです。自分たちはちょうどその間にある音楽をやっているのかもなって思ったりするから、そういう音楽を今後もっと表現していけないかなって思っています。

ー橋渡しになるというか。ミュージシャンにしてもリスナーにしても、さまざまな世代の方がいるので、その間に入れるようにという。

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晴揮:

そうですね。田舎ではあるんですけど、街中には人がたくさんいて。飲み屋街にちらほらライブハウスもあるんですけど、あまり人もいなくて、若い人たちはみんなどこで遊んでるんだろうって思ったときに、音楽の匂いはあまりなくて、やっぱりそこに壁を感じているんですよね。「この人たちの前にそのまま、僕らが触れている音楽を用意したらどんな反応をするんだろう」っていうのは気になります。

ーVVoodyさんはどうですか。

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VVoody:

ツアーに行きたいですね。今回は東京と浜松でしたけど、もっと全国各地を回りたいです。
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晴揮:

1stフルアルバムを出したときも、ツアーで行ってる範囲が狭くて。全国ツアーみたいなものってやったことがないので、遠方の九州とか北海道とか、来年はそういうところも回りたいです。

RELEASE INFORMATION

2nd Album『The Second Escape From The Summer Darkness』

2024年10月9日(水)
Tomato Ketchup Boys
配信リリース
〈BITS & ALIENS〉

【TRACKLIST】
1.Intro(Something’s Coming)
2.Secret Order
3.Build
4.Walking Distance5.Dungeon And Dragons
6.Summer Majestic7.Unnamed Place
8.Message
9.Your Friendly Neighborhood
10.Boys In The Spaceship

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Tomato Ketchup Boys

2017年結成。都内を中心にライブ活動を開始。2018年1st EP『I’m a Boy』を永井隆昌(CAR10)主宰の〈PENNANT PROJECT〉よりリリース。同年8月、オーディションを勝ち抜き<SUMMER SONIC>に出演。2019年にはNo Busesとのスプリットテープをリリースし、 東京、大阪、静岡にて共同企画MOTHER SHIP>を開催。2020年にはSF映画をコンセプトに据えた1stアルバム 『The First Encounter Of This Odyssey』をP-VINEからリリース。オリジナルメンバーである石川(Ba.)の脱退に伴い、2022年3月末をもって活動を休止した。 その後、拠点を地元・静岡県浜松市に移し、メンバーで共同生活を開始。2024年7月末、新ベーシストとしてVVoodyが加入し、活動再開を発表。同年10月に2ndアルバムをリリースする。
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