日泰アーティスト対談|aint lindy × quicksand bedが織りなす新たな化学反応。タイと日本の文化の違いを詰め込んだハートウォーミングで豊かな音

Interview

文: riko ito  編:riko ito 

タイの3人組ポップバンド・quicksand bedとBillyrromのギター・Rinのソロプロジェクト“aint lindy”が2024年11月19日にコラボ曲「Genie」をリリースした。互いをリスペクトし、国境を超えたコラボを行なった本作。今回は、そんな2組の対談が実現し、コラボの経緯や楽曲に込めた想いについて語ってもらった。

タイの3人組ポップバンド・quicksand bedBillyrromのギタリスト・Rinのソロプロジェクト・aint lindyが、2024年11月19日にコラボ曲「Genie」をリリースした。温かみのあるバンドサウンドにソウルフルなボーカルと、日常の風景を想起させるラップが見事に融合した本作。「願いを叶えること」のメタファーとして精霊“Genie”(ジーニー)をタイトルに据え、誰かを深く無条件に愛することや、相手が求めるものを叶えてあげたいという想いについて描いた、チャーミングなポップナンバーに仕上がっている。

これまでも台湾のラッパー/シンガー・桃子A1Jやロンドン拠点のedblPastelとのコラボレーション/リミックス作を発表するなど、国境を越えた活動を展開してきたaint lindyだが、今回のコラボでは初めての経験も多く、歌詞の制作面においては苦労した点もあったそうだ。また、quicksand bedがタイ国外のアーティストと楽曲を制作するのは今回が初。両者の魅力はそのままに、サウンドや歌詞面において新たな一面も垣間見える、フレッシュな1曲となっている。

実は今回の取材まで一度も顔を合わせたことがないという両者。その中でお互いが惹かれた理由や、実際に会うことなく制作する中で苦労した点はなんだったのだろうか。今回はタイと日本をリモートで繋ぎ、quicksand bedとaint lindyの4人にインタビューを敢行。コラボ曲「Genie」についてはもちろん、お互いの楽曲の印象や今後一緒にやってみたいことについても語ってもらった。

タイと日本の文化の違いを曲として残したかった

ー「Genie」制作のきっかけは、quicksand bedのみなさんが海外アーティストとコラボレーションしたいと思ったことだそうですね。タイ以外のアーティストと楽曲を制作したのは初めてとのことですが、コラボしたいと思ったのはなぜでしょうか?

インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

海外のアーティストとコラボレーションをすることで、お互いの文化の違いを音楽の中に取り込めるから。それを曲として形にしたかったので、今回実施することにしました。

ー日本のラッパーとコラボしたいと思っていたそうですね。何か理由があったのでしょうか?

インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

「Genie」のデモが完成した段階で、かなり気に入ったものができて。そのときに、日本語の歌詞や日本っぽいやり方を自分たちの楽曲に取り入れたら面白いんじゃないかなと思いついたんです。それが大きな理由でした。

ーquicksand bedとaint lindyというプロジェクトが繋がった経緯を教えていただきたいです。

インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

〈Namy &〉のNAMYさんが、僕らのレーベルを通じてaint lindyを紹介してくれたことがきっかけで彼を知って、Spotifyで楽曲を聴いてみたんです。最初は日本人のアーティストとコラボをするのは難しいかな?と思っていたのですが、aint lindyの楽曲の雰囲気がquicksand bedのカラーにも合っていたし、彼のスタイルはまさに私たちが思い描いていたものだったので、ぜひ一緒にやりたいなと。

ーaint lindyはオファーをもらった形になるんですね。quicksand bedの楽曲を初めて聴いたときは、どんな印象を受けましたか?

インタビュイー画像

aint lindy:

自分がフィーチャリングの話をもらってから彼らの既存の曲を聴いたときに、あんまり日本のバンドにはない独特な雰囲気を感じて。文化の違いがその要因だと思うんですけど、そういった部分が気に入って「ぜひやりたいな」と思いました。
aint lindy

相手に委ねることでより良いものが生まれることがある

ー「Genie」の制作の発端はJasonさんがギターで弾いたフレーズをバンドメンバーのふたりに送ったことだったそうですね。NottさんとGameさんが最初にデモを受け取ったときの印象をお聞きしたいです。

インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

最初にデモを受け取ったときは、まず一番に「美しい曲だな」という印象を受けて。その中にもR&Bやポップスの雰囲気もあって「この雰囲気で作っていきたい」と思いました。
インタビュイー画像

Nott(Dr.):

16小節ぐらいのすごく短いパートにリリックがあるような状態だったんですけど、僕も最初に曲を聴いた瞬間からかなり気に入りましたね。

ーどれくらい完成した段階でaint lindy側にデモをお送りしたんですか?

インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

aint lindyに送る段階では、トラックはすでにフルのデモが完成していて。そこに僕が歌うリリックを入れた状態で渡したんです。「願いを叶える」というテーマもある程度決まっていたので、それも一緒に渡して。

ーデモを受け取ったときの楽曲の印象はいかがでしたか?

インタビュイー画像

aint lindy:

多少の微調整や音の足し引きはあったんですけど、自分のバース以外はほぼ今の音源に近い状態でもらって。テーマもはっきりしていたから、自分的にはすごくやりやすかったですね。楽曲の完成度も高くて、雰囲気がわかりやすく感じ取れる状態でいただいたので、リリックも入れていて楽しかったです。
インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

aint lindyとは離れていて共同作業ができない状況だったけど、テーマが決まっている状態で楽曲を制作したことでパートごとに担当が振り分けられて、かなりラクにできました。その中で、テーマを決めて進めたことによって、aint lindyのバースのパート以外はほとんど想像通りに進んだので、そういった面でもやりやすかったです。しかもaint lindyのパートは想像以上のものになって、とても感動しました。

ー言語の壁などももちろんあったかと思いますが、コミュニケーションを取る中で苦労した点などはありましたか?

インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

苦労した点はほぼなかったですね。時差もあったし、同じ環境や制作の時間軸で進められないので少し不安はあったんですけど、蓋を開けてみると、相手に任せることで自分たちだけで作るものよりも良いものが生まれることがあることに気づけました。
インタビュイー画像

aint lindy:

遠隔で自分がトラックを作って歌詞を入れてもらうっていうのはやったことあったんですけど、トラックに対して自分が歌詞を入れるのは初めてのことで。だから最初はすごく難しい印象でした。でも、純粋で温かいけどどこか寂しさもあるサウンドの雰囲気と、共有してもらったテーマに一貫性があったんです。なので、いろんな人の個性が合体して一個のものになる良さがあるんだな、というのを実感できました。
quicksand bed

曲のモチーフは願いを叶えてくれる精霊

ータイトルを「Genie」(※日本語で「精霊」の意)にした理由は?

インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

自分たちの願いが叶うという事象の象徴やメタファーが“Genie”だなと思ったんです。たとえば子供のときに願いを捧げる存在であったりとか。そこから、「願いが叶う」という意味合いを出したくて「Genie」というタイトルにしました。

ーラブソング的な要素が強い歌詞なのかなと思ってたんですけど、恋愛に限らず、もっと大きな意味合いでの「願いが叶う」という意味を込めているということでしょうか?

インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

もちろん、歌詞の言葉通り恋愛的な要素も強いですね。自分のガールフレンドのために「Genieになって願いを叶えてあげたい」っていう想いがあったので、最初はその人に向けて歌詞を書いていました。

ーaint lindyのソロの曲には、ラブソングはあまりない気がしていて。特定の相手が浮かぶような歌詞というよりも、俯瞰的に物事を描いている歌詞が多いのかなと思いました。

インタビュイー画像

aint lindy:

そうですね。今回は本当に初めての歌詞のテーマというか。

ーでは、今回の歌詞を書く際に苦労した点などはありましたか?

インタビュイー画像

aint lindy:

さっきも言ったように、テーマがあること自体はやりやすかったんですけど、慣れない内容だったから最初はどうやって書こうかなって結構悩んだので、いつもよりは時間がかかってしまって。それこそちょっと俯瞰的になってしまう部分もあったんですけど、それだとやっぱり全体の歌詞の雰囲気と合わなくなってしまうので、そこは結構苦労しましたね。

ーaint lindyらしさがquicksand bedの世界観に馴染んでいる、とても素敵な楽曲でした。「Genie」のサウンドや歌詞で気に入ってる箇所をお聞きしたいです。

インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

aint lindyが書いた《何がお好み? 頼んでくる? bubble teaそれともice coffee?》というbubble tea(タピオカティー)のパートが、生活感のあるフレーズですごく好きでした。
インタビュイー画像

aint lindy:

ありがとう(笑)。自分はベースの音がめちゃくちゃ好きでしたね。それこそR&BのD’Angelo(ディアンジェロ)とかErykah Badu(エリカ・バドゥ)みたいなジャンル感のベースの音がして。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

すごく嬉しいよ、ありがとう。
インタビュイー画像

Nott(Dr.):

僕もaint lindyのラップパートが一番好きですね。quicksand bedの世界観に馴染みつつも、バンドにとってもすごく新鮮な楽曲になっているし。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

ちなみに、aint lindyのサウンドがめちゃめちゃ良いなと思って気になったのですが、いつもどんな機材を使ってるんですか?
インタビュイー画像

aint lindy:

自分は基本的には宅録でやっていて、オーディオインターフェイスはUniversal AudioのApolloを使ってます。それがすごく音が良くて。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

Apollo Twin?
インタビュイー画像

aint lindy:

そうそう。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

マイクは何を使ってるの?
インタビュイー画像

aint lindy:

AKGって知ってる? そのブランドのマイクを使ってます。

ーコラボ曲を出されたばかりではありますが、今後一緒に作ってみたいジャンルの曲ややってみたいことはありますか?

インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

まだ直接会ったことがないので、まずはランチをしたいですね(笑)。
インタビュイー画像

aint lindy:

それは俺もめっちゃしたい(笑)。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

もしフェイストゥフェイスで会える機会があるのなら、ライブセッションやギグを一緒に録りたいですね。
インタビュイー画像

aint lindy:

ライブもぜひ一緒にやりたいですね。
インタビュイー画像

Nott(Dr.):

タイに行ったことや今後行く予定はありますか?
インタビュイー画像

aint lindy:

まだ行ったことはなくて、すごく行きたいです。自分はもうひとつBillyrromというバンドをやっていて、そのバンドでは来年ツアーがあるので、可能性があればぜひタイも回れたらいいなと思ってます。
インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

そうなんだ。
インタビュイー画像

aint lindy:

でも自分はこのバンドではボーカルじゃなくて、ギターだけ弾いてます。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

どの曲が一番おすすめ?
インタビュイー画像

aint lindy:

「Once Upon a Night」っていう曲かな。
インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

OK。あとで聴いてみるよ。
インタビュイー画像

Nott(Dr.):

(Billyrromについて検索して)へぇ、<FUJI ROCK FESTIVAL>にも出てるんだね!
インタビュイー画像

Game(Vo. / Gt.):

aint lindyのプロジェクトでは、トラックも歌詞も全部自分で作ってるの?
インタビュイー画像

aint lindy:

そうだね。aint lindyの今までリリースされている楽曲は全部自分でやっていて、鍵盤もベースも全部自分で録ってます。
インタビュイー画像

Jason(Vo. / Ba.):

次に制作をするときはアレンジメントとかも一緒にやって、アイデアや人格のほうまで深く触れ合って曲を作れたらいいね。
インタビュイー画像

aint lindy:

そうですね。サウンド面でもどんどん自分のカラーを混ぜていって、また一緒に良い曲を作りたいです。コラボ第2弾も楽しみにしています。

RELEASE INFORMATION

quicksand bed New Single「Genie feat. aint lindy」

2024年11月19日(火)リリース
Label:NewEchoes

▼配信URL
https://bfan.link/genie-3
▼Offrcial Visualizer
https://youtu.be/324e1rrwPBU?feature=shared

Presents by aint lindy<Coin Toss>

2025年1月12日(日)at 表参道WALL & WALL
OPEN 17:30 / START 18:00
TICKET:
ADV 3,500円(+1D) / DOOR 4.000円(+1D)

▼LIVE
aint lindy

▼GUEST LIVE
Shin Sakiura
SPENSR

▼DJ
Yuta Hara(Billyrrom)
ARAWA

SNSで記事をシェア

SNSフォローで
最新カルチャー情報をゲット!

quicksand bed(クイックサンド・ベッド/写真右)

タイ・バンコクを拠点に活動する3人組バンド。メンバーはGame(Vo. / Gt.)、Jason(Vo. / Ba.)、Nott(Dr.)。ファンク、シティポップ、エレクトロニックを融合させた音楽性で独自のグルーヴを生み出している。

2022年に1stアルバム『OK, Vincent』のリリースで話題になった後、2年間活動を休止。ミュージシャンとして大きな変化の波を経験し、2024年に新たに活動をスタートさせている。


aint lindy(エイント・リンディ/写真左)

東京を拠点に活動する6人組・Billyrromのギタリスト、Rin Aokiのソロプロジェクトとして2022年に始動。作詞作曲をはじめ、ラップやトラックメイク、ギター、クリエイティブディレクションまでを自身で行う。

2023年には、サウスロンドンシーンで活躍するアーティスト・edblをプロデューサーに迎えた楽曲「Strange Leaf」をリリースしているほか、FKJのサポートも務めるPastelによるリミックス作品「Time Inn Moder - Pastel Remix」を発表。さらに2024年3月には、台湾・台北出身の桃子A1Jを客演に迎えた楽曲「APOLLO feat. 桃子A1J」をリリースするなど、海外アーティストとのコラボも精力的に行っている。

2025年1月12日(日)には、東京・表参道WALL&WALLにて初の自主企画ライブ<Coin Toss>を開催する予定となっている。


閉じる