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文: 冨手 公嘉
はじめてデモを聴いたときなぜだか懐かしい感じがした。がらんとした古い記憶の眠る箱が勝手に開いてくすぐったくなるような。同時に何をしても退屈だ、とでも言いたいような虚しさやそこはかとない絶望も根底に見えた気がした。そうしてまだシングルを数曲しか出していないJapanese Summer Orangeの首謀者がどういう人間なのかが気になった。
去年10月rib hiat motel益田の誘いに乗って何度かライブにサポートギターとして参加させてもらった。本人にコードを教えてもらい、スタジオでギターを弾き、1月いくつかのライブで演奏した『Everything is Okay』や『Seascape』。それらの音像に自ら飲まれると大きな渦を感じた。
2月に発売されたアルバム『Escape from Traumatic Situations』は彼自身のネガティヴなフィーリングをもとに制作されたというが、その状況とは裏腹にいつの間にか心癒されている自分に気付いのだ。
ここでは2020年正月のがらんどうとした渋谷のカフェで行われたコウタロウとの会話記録をお届けする。
ー最初に音楽をやろうと思ったのはいつ頃?
ギターを触ったのは小学6年生の頃ですね。当時10枚1000円でTSUTAYAでCDを借りていたけど、それより人の曲をギターでいっぱい弾けるようになったほうがお得じゃない?って。(笑)。
家の倉庫に眠ってたお父さんのアコースティック・ギターを触ったけどネックが反ってて、使い物にならなくて。落ち込んでいたら、クリスマスに入門セットを買ってもらったのがきっかけです。
ーずいぶん変わってるねぇ(笑)。じゃあギターが音楽をはじめるきっかけだったんだ。
でもギターをはじめる前から小学校の教室で、オリジナルっていうか、ぽい曲を鼻歌で歌ったりしました。
ーどんな学生だったの?
好奇心旺盛でしたね。茨城の東海村出身なんですけど、田舎なのでいろいろ自由が残されていて。団地の側にある人が入れないようなところを探検したり、ちゃんばらで遊んだり、エアガンで遊んだり…。中学時代はテニス部で県大会で2位を獲ったこともあって、顧問が強豪の高校を推薦してくれました。高校はフォーク部に入ろうか迷っていたんですけど、顧問の押しに負けてテニス部に入りました。それからはガッツリテニス漬けで。
ーじゃあはじめてオリジナルを作ったのはいつくらい?
ちゃんと完成させたのは高校3年生の時ですね。推薦で大学に入ることも決まっていたから、ほとんど受験勉強してなくて。部活引退してから卒業までの間にバンドやりたくなって、友達とコミックバンドやってました。そのときにオリジナルを。
ーオリジナルを作るのに苦戦しなかった?
コードを弾いて適当に歌ったらメロディになるので、自分で曲を作ることに対するハードルは低かったんです。多分、難しく考えてなかったのもあると思うんですけど…。この曲で売れてやるとか全然思っていなかったですし、当時は音楽で生きていくのは無理と思ってたので。だから本当に遊びのスタンスでした。
ーなんで「俺は無理」なの?
テニス漬けだった自分に対して、もうちょっと本格的にライブハウスで活動している高校の友達とかも見ていたからですね。本気感が伝わってきたし、『これ、自分には無理じゃん』って。やっぱり心のどこかでは本気でやりたいなぁという気持ちはありましたけど、高校時代のバンドは大学進学のタイミングで終わりました。
ーそれで大学に進学してようやく音楽漬けの生活と。
いや、そうでもなくって。最初はテニサーで割とウェイウェイしていたんです。でもどこかでこれでいいのかなあと思いはじめて。それでサポートとしていろんなジャンルのバンドを手伝うんですけど、その人達より自分が作った曲をサポートなのに褒められたりして。ようやく「自分で本格的にやろう」と決めました。
ーどんな音楽性でバンドを?
当時きのこ帝国の『eureka』を聴いて、そこからシューゲイザーにハマって。andymoriも聴いてたからフォークの要素を残したロックバンドを組みましたね。でもライブは1回か2回しかしてないかな。バンドメンバーとモチベーションや気持ちを揃えるのが難しかったんです。ベースが脱退するタイミングで活動のペースが遅くなり、『もうこれ駄目だなぁ』と音楽を諦めてアメリカのシアトルに留学をしました。
ー留学の理由は?
自分は東海村から東京に出てきただけでなんの武器もないなぁって。英語もできるようになりたかったし、とにかく自分をグレードアップさせたかったんですよね。そのタイミングでシアトルに11カ月行かせてもらえることになったので。…それこそ音楽を捨てる覚悟でいったんですよ。でも行ったら行ったでホームステイの家にあるギターが気になっちゃって(笑)。結局、暇な時にはギターを触ってましたね。それでやっぱり音楽ってめっちゃいいなぁって。
ーずっと自分の周りに音楽があったんだ。
そうなんです。気がつけば友達の誕生日に曲を作って披露してたり、結局自分は音楽から逃れられないんだなぁって。その時に、やっと洋楽を掘るために海外のYouTubeチャンネルTiny desk concertを観たりしてました例えばDeclan McKennaからはじまって、Lo-Fiな音楽を聴くようになった感じでしたね。
音楽を捨てる覚悟でいったのに、逆にもっと本気でやりたくなって『やりてぇ』って気持ちで帰って来ました。
ーどうやって曲の歌詞はできるの?
人の顔は覚えられないんですけど、過去の出来事を思い出すのは得意なんですよ。覚えておきたい出来事の瞬間のビジュアルとか空気を覚えているんですよね。ふっと当時の自分に戻れるというか。その時の自分の身体に入って、当時の自分を今見てどう思うのかを観察して、曲にするようになりました。ただ思い出すのはネガティブな出来事の方が多くて…(苦笑)。でもそういうふうに観察したものを曲にすると、自分のトラウマが解消される気がするんですよね。
ー最初はどの曲を作ったの?
シアトルに居たときに『Let Me Get Your Some Beers』ですかね。酔っ払って家のマーシャルのアンプでギターとマイクを繋げて酔っ払いながら弾いてて。ああ、いい感じのできたなあって思ったけど、その時は置いといて。で、帰国後も英語の勉強を続けたくて国際寮に入ってそのときに『The Ones』ができて。その2曲でMVをどうせなら作りたいなって思って皆様ズパラダイスさんに曲をネットで送ったら『かっこいいじゃん!』って反応してくれて。2曲ともにMVになりました。
ーそれからライブ活動をはじめたんだね。
はい。出して3カ月くらいで結構いいライブのオファーもらって、思っていたより早く反応があったんですけど、ソロでライブやるのは結構難しい部分があった。大学時代に解散してからは『バンドはもういいよ』って思ってソロになったんですけど、やっぱりバンドのダイナミクスが欲くなって、去年の10月くらいから準備していろんな人達に声をかけたんです。
ーバンドを改めてやる上で何か変化は?
ひとりじゃないというのは、大きいですね。自分では出てこなかったフレーズを誰かが出してくれるときもあるし、単純にやっていて楽しい。楽曲を演奏しててこれまでひとりでは感じられない感動を味わえる瞬間もありますね。バンドのグループが大事とかよく言いますけど、昔は正直どうとでもなると思っていたんです。でも結局バンドでしか出せないフィーリングがあるし、曲を作るときにもバンドの活動は活かせるし、今後アレンジを含めて変わっていきそうだなって思っています。
ーどんな風に自分の音楽を聴いてほしいですか?
うーん。それぞれの体験が呼び起こされればいいですね。英語なので何を言っいてるか気にしないで聴く人も多いでしょうけど。それでも共感とか共鳴できる隙間はあると思っているので、自分のことを振り返ってもらえるような時間になれば。
自分の過去の記憶の浄化のために曲を作りましたけど、僕の気持ちとは関係なしに、曲のムードから自分の過去とかを思ってくれたりすれば、それが一番いいかなと思います。
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