次代のジャズを牽引する偉才、カッサ・オーバーオール

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文: 黒田 隆太朗  写:後藤倫人 

3月6日に『I Think I'm Good』をリリースした、次代のLAジャズシーンをリードする逸材Kassa Overall(カッサ・オーバーオール)にインタビュー。記事後に多数のアザーカットも掲載。

麗しい旋律、幻想的な音色、そしてどこか内省的な歌。カッサ・オーバーオールの新作は美しい。2019年に『Go Get Ice Cream And Listen To Jazz』でデビューした彼は、僅か1年で本作『I Think I’m Good』を作り上げている。過去の精神疾患の経験をはじめとし、自身のトラウマと向き合うことで歌を綴っていった、より彼のヴォーカルが際立つ作品である。一流のドラマーであることはもちろん、ソングライティングやアレンジ、ヴォーカルなど、多方面に才能を発揮したアルバムとも言えるだろう。新作のことや、本作に参加した俊才ジョエル・ロスのことなど、今のモードを語ってもらった。

ストーリーを語るためのヴォーカル

ー『I Think I’m Good』素晴らしいです。前作(『Go Get Ice Cream And Listen To Jazz』)より幻想的で、歌が立っている作品だと思います。

その通り(笑)。素晴らしい観察だと思う。

ー(笑)。

前作のアルバムをリリースした時には、ヴォーカルだったり歌詞の面でのリアクションが薄かったんだよね。でも、今回は自分のストーリーをアルバムに入れようと思った。それを語るためには自分のヴォーカルが必要だったし、そのヴォーカルっていうのは自分のキャラクターが表れるものなんだよね。今回のアルバムでは、よりそこにフューチャーしたんだ。

ーなるほど。

そして幻想的な部分があるというのも、その通りだと思う。無意識な感覚だったり、自分が眠っている間の意識をテーマに扱っているものが多いんだ。無意識こそが自分にはわからない部分への唯一のアクセスになったり、無意識だからこそ生み出せるものがあると思ってね。たとえば、ジャズの即興も無意識から生まれるものだよね。ジャズの即興でも、何故即興が生まれるのか、どのようにして生まれているのかっていうことは皆考えないと思うんだだけど。無意識とジャズというものを繋げることで、ジャズを見つめなおすことができたと思っているよ。

ーでは、今回アルバムで描こうとしたストーリーというのは?

今回のタイトルは『I Think I’m Good』なんだけど、ここでは「自分は大丈夫」っていう言葉はクエスチョンなんだよね。「自分は大丈夫だよ!」って言っているわけではなくて、「大丈夫なのかな?」って問いかけているんだ。それは世界に関することでもなく、国に関することでもなく、自分自身に問うてる。それが今回のアルバムに込めたストーリー。鏡を見て自分自身を見つめ直すということがどんなに複雑なことかどうか、それをこのアルバムで表したんだ。

ー1曲目「Visible Walls」のハープの音は物悲しく、「Darkness in Mind」はマイナーコードが印象的です。アンニュイな気分を感じますね。

アルバムを作っていく中、曲ができていくとその中で特別なものが何曲かできてくるわけだよね。そこで今度は、それに合ったものをアルバムのトラックとして選んで加えていって、今回の物語にまとめていったんだ。アルバムは10曲のベストソングが入っているわけではなくて、10のチャプター、10のストーリーで作るものだから。で、ハッピーなトラックっていうのは後ろから二番目の「Got Me a Plan」だと思うんだけど…これがないとアルバムが悲しすぎる感じになっていたから、ギリギリで加えたんだ。

次ページ:伝統的なジャズと新しいジャズのコンビネーション

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