奇妙礼太郎が創り出す“愛”溢れる空間。活動25周年記念の日比谷野音公演をレポート

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文: riko ito  写:村井香 

今年で活動25周年を迎えた奇妙礼太郎が、2023年9月17日(日)に日比谷野外大音楽堂にて単独公演<I LOVE YOU>を開催。キャリアを総括するこれまでの人気曲と、ソロとしては4枚目となる最新アルバム『奇妙礼太郎』の収録曲で構成される全24曲を披露したライブの模様をお届けする。

活動25周年を記念して開催された同公演のチケットは完売。立見席まで多くのファンが集まった。25年にわたる歳月の中で、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団天才バンドアニメーションズ、ソロといった、さまざまな形態で活動を展開してきた奇妙礼太郎。そんな活動を振り返るようなセットリストとともに、会場を祝祭感で包み込むライブとなった。

定刻になると、バンドメンバーの中込陽大(Key.)、村田シゲ(Ba.)、堀口知江(Gt.)、松浦大樹(Dr.)、宇野嘉紘(Tp.)、高橋勝利(Tb.)、沼尾木綿香(Sax.)、山下あすか(Per.)が赤いバラを持って登場。それに続いて、周年記念ライブにふさわしくフォーマルなスーツに身を纏った奇妙が姿を現した。

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団時代の楽曲で、金管楽器の音色が伸びやかな「オンリーユー」からスタート。奇妙の突き抜けるような歌声が野音の空に響き渡った瞬間、大きな歓声が上がる。そして間髪入れずに「わるいひと」へ。多幸感あふれるダンサブルなサウンドに、オーディエンスは居ても立っても居られない様子で一斉に立ち上がる。高橋の爽快なトロンボーンから始まる人気曲「オーシャンゼリゼ」では、多くの観客が両手を挙げて大合唱。自由に揺れる観客を見て奇妙は「2時間よろしくね」と笑顔で挨拶をした。

奇妙のライブの醍醐味の一つに、誰もが自由に音に浸れる点がある。この日のライブでも、最初の3曲からそんな解放的な雰囲気が作られていた。まるで、“俺たちも自由にやるから、みんなも自由に聴いたらええやん”と言われているかのようでもある。たとえ変な動きで踊っていたとしても、おかしなタイミングで声をあげていたとしても、それを全て許してくれるような優しい空間が成り立っているのだ。

「すごいリスペクトしている人の歌を2曲やるので」と奇妙が一言添えると、松田聖子の「赤いスイートピー」「SWEET MEMORIES」とお馴染みのカバーを続けて披露。この2曲では、沼尾がフルートに持ち替え、優しい音色を添えていた。

そしてそのまま、ソロ3rdフルアルバム『たまらない予感』収録の「たまらない予感」「かすみ草」へ。「かすみ草」では、堀口の咽び泣くようなギターソロをはじめ、原曲以上にアグレッシブな演奏でオーディエンスを圧倒。ここまで笑顔を浮かべながら歌うことが多かった奇妙も、この曲では激しく声を張り上げ、鋭い眼差しを観客に向けていた。

会場が暗転すると、「もう俺たちもそういう関係かもしれないね」と、「エロい関係」を歌唱。バンドの演奏は歌を優しく支えるように、じっくりとグルーヴを醸成していく。日も完全に落ち、薄暗いライトの中で披露した「わたしの歌」では、鈴虫の鳴き声をBGMに中込の流麗なキーボードとホーンセクションのサウンドが混じり合う。感情表現豊かに奇妙が歌い上げると、その艶やかな歌声に魅せられた観客の恍惚とした表情が目に入った。

メンバー全員が一度ステージから捌けたあと、“TENSAIBAND BEYOND”のロゴをあしらった看板を持った奇妙と、ドラムの松浦、そして奇妙の盟友・Sundayカミデが登場。2023年1月に4年ぶりの復活を果たした天才バンド(TENSAIBAND BEYOND)の登場に歓声が上がり、Sundayの軽やかなピアノソロから人気曲「君が誰かの彼女になりくさっても」がスタート。奇妙が先ほどの看板を裏返すと、“名曲”の文字が。奇妙とSundayの両者が指名し合いながら歌い、観客も《名曲》のコール&レスポンスに応える。そして、「辞めたはずのTENSAIBAND BEYOND、なぜか来年ツアーがあります」と5年ぶりのツアーを発表し、会場を沸かせた。

その後、奇妙が1人で再登場。映画『ティファニーで朝食を』の劇中歌「Moon River」の日本語カバーを弾き語りで歌い上げた。温かさと脆さの両面を含んだ歌声が夏の心地よい夜風に溶けていく。

ここまでの前半は、ホーンセクションを迎えた9人編成や天才バンド、ソロでの弾き語りなど、さまざまな編成で25年の活動を象徴する曲を披露。代表曲をファンとともに楽しみたいという想いが伝わってくる内容となった。

そして後半は、最新アルバム『奇妙礼太郎』を収録曲順に演奏。バンドメンバーが舞台に戻ってくると、「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」、「春の修羅 feat. 塩塚モエカ」、「HOPE feat. ヒコロヒー」のソロバージョンを立て続けに披露した。

「去年の夏の休日に、自転車でコンビニに行ってね。冷たいビールを2本ビニール袋にぶら下げて。まあ、4本…いや6本」とギターを弾きながら話し始めると、その帰り道で中学生のカップルを見かけたというエピソードを語る。「それがすごい僕には尊いものというか、輝いて見えました。そんな頃にできた、“バカみたいに”という意味の曲です」と「ONLY FOOL」へ。ステージ上のミラーボールが煌々とした光を灯す中、ギターとフルート、MPCというシンプルな構成によるダンサブルなサウンドが心地よく響く。

続く「真夜中のランデブー」では、奇妙が激しくギターをかき鳴らし、トランペットの宇野もアグレッシブな演奏で魅せる。メロディアスなキーボードのサウンドとともに「touch my soul」に移ると、前曲のロックな雰囲気から一転、語りかけるような優しい歌声を響かせた。

「終わっちゃうな」と奇妙が名残惜しそうに述べると、村田のグルーヴィーなベースが際立つ「ほんまにおいしいお好み焼き」へ。コール&レスポンスとともにオーディエンスが手を横に振るなか《日比谷野音公演でゆらゆら踊っている俺たち、まるで鰹節みたいやんか》と歌詞を変え盛り上げた。「フレンズ」では、疾走感溢れるアレンジが刹那な雰囲気を創出する。そして、終盤に向け名残惜しくなったように「礼太郎!」「I Love You!!」と叫ぶ観客に対し、「ちょっと1曲やるから、静かにして」と照れ笑いしながらコミュニケーションを取る場面も印象的で、アットホームな空間となっていた。

そして奇妙の車愛が窺えるバラード「Vintage」から、本編ラストの楽曲「いつのまにか猫」へ。両手を横に広げながら楽しそうに歌う奇妙に、観客も手拍子とコール&レスポンスで応え、多幸感満載の空気で本編は終幕…と思いきや、奇妙がギターを再度奏でて「いける? 猫頼んだぞ〜!」と再び《猫》コールの大合唱へ。

アンコールでは、「人は誰しも心の中に穴開いてると思うねんけどぉ! それをさ、埋めようと思って生きてるかもしらんやんかぁ〜! ちゃうのぉ!?」と煽るように言い、ソロ2ndアルバム『More Music』収録の「穴」を披露。マイクスタンドを持ちながら、妖艶に歌う奇妙の姿と上品なサウンドが幻想的な雰囲気を創出する。そしてバラを持ちながら、聴く者の心を鷲掴みにする情感たっぷりの歌声で「愛の讃歌」を歌い上げ、楽曲が終わるとともに奇妙の顔のイラストが描かれた垂れ幕がハートのライトに照らされた。奇妙は深くお辞儀をしてステージをあとにする。

しかし、鳴り止まない拍手に応えて再登場。ダブルアンコールとして未発表曲「八丁味噌 発注ミス」を歌唱した。ライブごとに異なるコール&レスポンスなど、奇妙のライブは即興性が高く、何が起こるかわからないワクワク感があるが、それでも誰も置いていかずに全員を包み込む不思議な力がある。そんな奇妙のパフォーマンスの魅力がこの未発表曲で結実していた。オーディエンスとともに《I Love You》を大合唱し、この日の公演は幕を下ろした。

2023年はすでに150本以上のライブをこなしている奇妙だが、今回新たに発表された2024年2月のTENSAIBANDツアー、そして2023年10月末からはバンドセットでのアルバムリリースツアーも控え、まだまだその歩みを止めることはない。今回の公演でも、バンドメンバーのソロパートで気持ちよさそうに音に浸っていたり、嬉しそうな表情で客席を見つめたりする姿が印象的だった。そんな奇妙の、ライブという空間への愛、バンドメンバーへの愛、オーディエンスへの愛、そして何より音楽への愛が存分に感じられる一夜となった。

SET LIST

M1. オンリーユー
M2. わるいひと
M3. オーシャンゼリゼ(Cover)
M4. 赤いスイートピー(Cover)
M5. SWEET MEMORIES(Cover)
M6. たまらない予感
M7. かすみ草
M8. エロい関係
M9. わたしの歌
M10. 君が誰かの彼女になりくさっても
M11. Moon River(Cover)
M12. 散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉
M13. 春の修羅 feat. 塩塚モエカ
M14. HOPE feat. ヒコロヒー
M15. ONLY FOOL
M16. 真夜中のランデブー
M17. touch my soul
M18. ほんまにおいしいお好み焼き
M19. フレンズ
M20. Vintage
M21. いつのまにか猫

EN1. 穴
EN2. 愛の讃歌(Cover)
EN3. 八丁味噌 発注ミス

LIVE INFORMATION

25th Anniversary Album『奇妙礼太郎』Release Tour

◼︎北海道公演
2023年10月29日(日)at 札幌・cube garden
open 17:00 / start 17:30

◼︎宮城公演
2023年11月2日(木)at 仙台・MACANA
open 18:30 / start 19:00

◼︎福岡公演
2023年11月11日(土)at 福岡・BEAT STATION
open 17:00 / start 17:30

◼︎大阪公演
2023年11月18日(土)at 大阪・味園ユニバース
open 16:45 / start17:30

◼︎愛知公演
2023年11月19日(日)at 名古屋・CLUB QUATTRO
open 16:45 / start 17:30

◼︎東京公演
2023年12月1日(金)at 恵比寿・LIQUIDROOM
open 18:15 / start 19:00

料金:5,000円(+1D)
※全公演共通

▼チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2345113
▼ローチケ
https://l-tike.com/search/?keyword=奇妙礼太郎
▼e+
https://eplus.jp/sf/search?block=true&keyword=奇妙礼太郎

“TENSAIBAND BEYOND” TOUR 2024

◼︎大阪公演
2024年2月10日(土)at 梅田Shangri-La
open 17:00 / start 17:30

◼︎愛知公演
2024年2月11日(日)at 名古屋・TOKUZO
open 16:30 / start 17:30

◼︎北海道公演
2024年2月17日(土)at 札幌・ベッシーホール
open 17:00 / start 17:30

◼︎東京公演
2024年2月24日(土)at 渋谷・CLUB QUATTRO
open 16:45 / start 17:30

料金:5,000円(+1D)
※全公演共通

▼チケット購入(ぴあ)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2346168

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奇妙礼太郎(きみょうれいたろう)

1998年より音楽活動を開始。大阪府出身。

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団、天才バンド、アニメーションズなどのバンドを経て、2017年にソロメジャーデビュー。<FUJI ROCK FESTIVAL>や<RISING SUN ROCK FESTIVAL>などの国内フェスを含む、年間150本以上のライブに出演。ボーカリストとして多数のCM歌唱も担当するほか、写真展も実施するなど多岐にわたる活動を行っている。

2023年10月からは全国6都市でのバンドツアー<25th Anniversary Album『奇妙礼太郎』Release Tour>を、2024年2月からは<“TENSAIBAND BEYOND” TOUR 2024>の開催を予定している。
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