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文: 石角友香
楽曲を耳にしている段階でアーティストがどこを拠点にしているのか?もっと言えば英語詞メインの歌の場合、彼がどこの国のどんなバックボーンを持つ人かもわからない。ある意味、TOSHの音楽は理想的な状態で飛び込んできた。たとえばネオソウルもインディR&Bもインディロックも混在するプレイリストやアップカミングなアーティストのプレイリストで、である。もはや知る人も多いかもしれないが、TOSHは2020年に沖縄・那覇を拠点に活動をスタートした(最初は)宅録アーティストだ。2020年春にローンチした完全自主制作EP「IN MY ROOM.」はタイトル通り(もしくはそのアートワーク通り)iPadとギターとベース、iPhoneやイヤホンをマイク代わりにGarageBandで制作したパーソナルな仕上がりだった。だが、そのミニマムな音数や制作環境から溢れ出るギターの音選びのセンスやフレージングの洒脱さと、少年が少し背伸びして歌うような青さには、世界基準のインディR&Bや現代のシティポップ、加えてほんの少しサーフロックの匂いもした。感覚レベルで大好物だと断言できる世界観だ。
TOSHの音楽が聴き逃される訳もなく、あっという間に国内外、特にアジアの若いリスナーから好意的なコメントが寄せられるようになったらしい。TOSH自身もフェイバリットにあげているSUNSET ROLLERCOASTERの2020年のアルバム『SOFT STORM』やSteve Lacy(スティーブ・レイシー)、個人的にはNo Busesや後期PAELLASと共通するフィロソフィーも感じている。バックボーンにはPhoenixからVampire Weekendに至る00年代後半のオルタナティブミュージックがあり、その影響はギターリフや歌メロに垣間見える。それはマインド的にも大きな存在だろう。だが、TOSHの音楽性は同じく沖縄のプロデューサー、EijiHarrisonとの共作シングル「Magic Feeling」やEijiHarrisonの「nowhereland」にフューチャリングボーカルで参加した頃から、よりエレクトロニックなサウンドメイクやハウス/ブレイクスのビート感も違和感なく取り込み始めた印象だ。
いわばダンスミュージックのイメージも混交されてきたところにリリースされる「All Night Long」、これがいい意味でその流れを裏切る8ビートのシンセ押しのインディポップ。ビートはリズムマシーンだろう。コンプのかかった80sっぽい音像にシンプルなギターリフが映える。これまでもシンプルなラブソングを歌ってきたTOSHだが、今回はさらにビビッドだ。多分、「なんてこった、彼女は家に帰りたくないとか言ってるけど、僕の頭はグルグルしてるし、こりゃ長い夜になりそうだぞ」みたいな内容だと思う。フレッシュなビートの意味もわかる。そしてTOSHが捉える“インディー的なるもの”の深度も理解できる曲だと思う。これは単に個人的な空想の関連付けだが、Bialystocksに「Nevermore」で出会ったリスナーが、他の曲がむしろジャズ的要素が濃かったことに驚いたことの反対の現象が今回のTOSHの「All Night Long」で起きるような意外性かもしれない。
沖縄拠点で活動しているからかもしれないが、TOSHは現状、東アジアのリスナーの支持が厚く、コロナ前には台湾のイベントにも出演していたり、今夏の沖縄での<大浪漫商店2周年企画 NAHA CITY・POP☆NIGHT>にも出演していたりする。インディーミュージック・マインドに信頼を寄せられ、様々な曲想を持っているTOSHは、2020年代後半のアジアンスターになり得るんじゃないだろうか。そんな期待が意外性たっぷりな「All Night Long」とともに顕在化しそうな予感。
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