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文: 石角友香 編:Miku Jimbo
90年代以降、日本のバンドシーンには独自のギターロックバンドの系譜が脈々と生き続けているが、今回紹介するCatfood Salmonsもまた、その系譜の中で栄養をインプットし、アウトプットしている存在だと思う。2018年に結成された4人組で、作詞作曲を手掛ける神定秀輔(Vo,Gt)はSNSで2022年12月に出演したサーキットイベント<下北沢にて’22>で、敬愛するBBHFが同イベントに出演していることに感激していた様子。確かにGalileo GalileiやBBHF、もっと言えば尾崎雄貴の貪欲で音楽的なチャレンジや海外の音楽からの影響に共通点を感じる。さらに言えば、G.G.も結成当時に影響を受けていた初期のBUMP OF CHICKENの、青い孤高とも言うべき日本ならではのギターロックのDNAはCatfood Salmonsにも引き継がれている。2018年12月リリースのシングル「Daydream」はのちの2020年6月リリースの1stミニアルバム『Watercolors』にも収録されているが、瑞々しく端正な日本語にこだわった歌詞がいわゆる邦ロックと呼ばれるジャンルのセオリーを飛び越えた、ドリームポップやシューゲイザー的なメロディに乗っているのは新鮮。ギターサウンドもこだわり抜いた単音で、美しいアルペジオが耳に残る。2021年11月には配信シングル「Aoharu Goes On」をリリースしており、タイトルからも察せるが、どこか初期のスーパーカーを想起させる透明な轟音で突っ走る。彼ら自身が孤高のギターロックバンドへと洗練されてきたプロセスを感じる曲でもある。
2年ぶりとなるミニアルバム『Patchworks』にはさまざまな時期にできた7曲を収録。ギターロックではあるものの、90年代のUKロックやインディーポップなど、時代を超えたグルーヴィなリズムとサウンドプロダクションをグッと自分達のモノにしていることに驚く。マンチェビートとシューゲイズの渦がイントロから強力な「SYMPATHY」。ビートも音像も緩く踊りながら歌詞を反芻するにはもってこいだ。憧憬を抱く誰かは自分に似ているからこそ距離を置く、そんな心情が伺える。続く「シンタックス・エラー」も太いベースラインが牽引するマンチェを想起させる曲調。英文和訳的な歌詞もユニークで、タイトルがプログラム上の構文の誤りを意味していることと関連があるとしたら、なかなか鋭いセンスだと思う。さらに結成当初からライブで演奏しているという「バニラアイスのいうとおり」は気が遠くなるようなドリームポップの要素が満載で、ヒカリ(Ba,Cho)とのデュエットがそのムードを増幅させる。若さゆえの無敵感と、モラトリアムな時期の終焉の気配。もしくは別れ。終わっていく季節をただ眺めているのは実は強さかもしれない、そんなふうにも思える解釈の幅もいい。
ボーカルの神定は基本的に人間の孤独を描いているが、変われない資質を歌う「心に蝶を飼っていて」には少しsyrup16gの透明な荒涼感を見てしまう。綺麗に歌うこともできる彼だが、この曲では吐き出すような生々しい表現をしているのも興味深い。続く「北極星」はタイトルのイメージ通り、冬の空に吸い込まれてしまいそうな澄んだリバービーなギターサウンドがちょっと怖いくらいだ。ファルセットやプリズマイザーも使ったボーカル表現も意欲的で、寒くて誰もいない場所に喩えた自分の道を歩いていけるかな?とどこかの誰かに問いかけているようだ。終盤は配信リリース済みの「Aoharu Goes On」がミニアルバムの流れの中で、「北極星」の問いかけに応えるように、“それでも行くんだ”という意志を見せているように聴こえる。そこからのラストナンバー、「カルトヒーロー」の堂に入った普遍的なロックンロールの強さには素直に痺れる。ジャングリーに鳴らされるギターは90年代どころか、60年代のThe Kinks(ザ・キンクス)やThe Who(ザ・フー)みたいでもある。それでいて、少しフォーキーな味わいもあり、ギターを持って集まった少年たちの物語の始まりのいい意味での変わらなさを思うのだ。
冒頭で日本のギターロックシーンについて触れたが、今や国も時代も超えてリファレンスは溢れている。だが、Catfood Salmonsは90年代の邦楽ロックを入口にして、表現したいことの核心に近いサウンドを見つけて来たタイプのバンドなのだろう。そのプロセスを踏んでいるからこそ、日本語詞であることに説得力が生まれるし、ダイレクトに刺さる。このミニアルバムが本格的な出発点になると踏んだ。あらゆる世代に聴かれてほしい。
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