文: 石角友香 編:Miku Jimbo
この6月に27歳となるソングライター長谷川海音のバンドプロジェクト“のの”。これまでギター、ベース、ドラムとの4ピースで制作したアルバム『ACT TOUGH』(2022年11月)、その後、長谷川の一人体制で作ったシングル「ひこう船」(2022年12月)、「バウムクーヘン」(2023年3月)を発表し、編成の変化によって音楽性やアレンジは変化してきてはいるものの、まず耳に飛び込んでくるのは自然発生的な独特なメロディとイノセンスを湛えた声だ。そしてこれが彼の最大の特徴だと思われるが、属性や思想、もっと身近なことで言えば好みの違いや生い立ちによって自分とは考え方の違いのある対象を認め、共にそこにいようとする姿勢が常に歌詞の中で表現されていることだ。
長谷川海音という人の歌詞表現のモチベーションがなんなのか、少し探してみると学生時代に約半年に渡って世界一周した経験談に巡り合う。学生時代、誰もが多少は思うことに、本当に世界中の人と分かりあうことって可能なのだろうか?逆に理屈では分かっていたけれど自分には許容できない習慣や考え方ってあるのだろうか?と。おそらく彼はそのことを同世代より少しは身を持って体感してきたのだろうと思う。
さて、2022年12月リリースの「ひこう船」以降、一人体制での制作に移行した長谷川の作品性だが、2年前のソロプロジェクトMernoteでの実験的なポップソングとももちろん違う方向性だ。元々の自然発生的なメロディを生かしつつ、言葉を無理やり形式に押し込めることのない一人体制の“のの”は、言葉を含めた音楽的なメッセージを一番いい形で伝えることに成功しているように思える。3月リリースの「バウムクーヘン」では〈A&M〉っぽいアメリカンポップスや、キリンジ(KIRINJI)やスカートにも通じるグッドメロディと洒脱なアレンジに自由に変化していく音楽性を感じさせた長谷川。一体の生地ではなく、層で構成されるお菓子であるバウムクーヘンに思想や好みの違いはあれど、一つの物体として成立しているバランスを投影しているような歌詞がとてもユニークだ。それでいて説明的じゃないのはメロディのマジックだろう。
そして現体制の第三弾としてリリースされる最新曲「paranoid」。まず、そのDIY感に溢れるザラッとした音像に驚かされるが、長谷川の脳内をそのまま映す音像としてこの上ない解像度でもあると思う。グッとテンポを落とした後ろノリ気味の16ビートは緩いテンポも手伝ってメランコリックなムードを描き出す。印象的なハイハットとディラビートがネオソウルの味わいを醸し、地声から勢いよくファルセットに伸びていくボーカルもエモーションが乗っている。整えすぎることなく思いを表現する彼のボーカリゼーションの中でも飛び抜けてソウルフルだ。歌詞面では《執着が 心臓の薬でした》という一文が象徴するように、何かにこだわる、執着することで自分を保っていられた過去を認めている。誰もがある程度、パラノイドであることを認めるからこそ、他者のこだわりを受け入れることができる、そんな内容なんじゃないだろうか。バンド編成時の「必要ない」の歌詞に《ほんの少しだけ 幸せなお陰で 死ぬのが怖いんだ》というパンチラインを聴かせていたが、今回も柔らかなムードの中でサラッと真実で刺してくる。いわゆるチルアウトなムードのある楽曲に落とし込むのがいかにも彼らしいし新しい。エフェクティヴなあしらいを排し、生な音像で仕上げているところにはチルとは一線を画す意図が見て取れ、音楽的なジャンル感から最も遠い印象へ着地させる手法は相変わらずユニークだ。
そういえばMernoteのインタビューで、リスナーとしての彼の志向は10代の頃に聴いたMr.Childrenやスピッツといった太い芯を持つ日本のロックに加え、Radiohead(レディオヘッド)や君島大空、折坂悠太などにも拡大しているという記載を見た。現在はさらに興味の範囲を広げているのだろう。全方位に開かれつつポップメーカーでもある彼が生み出す楽曲の面白さをこれからも追ってみたい。
RELEASE INFORMATION
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NEW SINGLE「paranoid」
2023年6月14日(水)リリース
のの外部リンク
early Reflection
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