THE NOVEMBERS『At The Beginning』。混迷の時代に響くはじまりの歌

Review

文: 黒田 隆太朗 

THE NOVEMBERSの新作、『At The Beginning』をレビュー。

 リスナーにとってアートワークとは、作品を聴く前に受け取る最初の情報であり、いわば音楽が「鳴る前」に聴く(見る)芸術である。曇天の海は不気味さを、完全な球体は人工物を、極彩色のカラーは混沌と多様性を想起させる。だとしたら、歌詞カードに描かれている円は調和だろうか。シューゲイズ・サウンド、インダストリアル、ニューウェイブ、エレクトロ…それらが苛烈さをもって渦になる『At The Beginning』は、いくつもの問題が噴出しているカオスな現実と、それでも捨てることのない未来への期待を記した、この社会の写し鏡のような作品である。

 「Rainbow」は彫刻のような美しさを持つ1曲で、冒頭の近未来を思わせるシーケンスだけでもこの作品の価値を確信するだろう。<君はいつも/いまがはじまり>と歌う、いわばこのアルバムの根幹となる精神を示す楽曲だ。作品タイトルにも表れている通り、この作品はあくまでも「はじまり」を告げる作品である。

 では、終わったものとは何か? それはたとえば、強烈なインスダストリアル・サウンドを突きつける「理解者」の、<何だって知ってるし分かってる/俺のことを/俺よりも>、<あんたが噛んでたものばっか食ってたら/歯が抜けた>という歌。あるいは冷たいビートで反復を繰り返す、「New York」の<過去はくれてやる>、<賞味期限切れのファンタジー>というリリックから想像できるかもしれない。小林祐介(G&Vo)は本作について、「コロナ禍で浮き彫りになったいくつもの問題への眼差し、そこからの再解釈、新しい始まりの意を込めた」と表明している通り、未来を歌う本作には必然的に古くなった価値観への離別が存在する。強烈なノイズには否定の力があり、我々を縛りつけてきた悪しき風潮を退けようという意志を感じるのだ。

 実際、THE NOVEMBERSの音は変わった(進化、ないしは飛躍したと言うべきだろうか)。リリース前にアナウンスされていた通り、「Rainbow」と「楽園」を除いた7曲で、L’Arc~en~CielACID ANDROIDyukihiroがシーケンス・サウンド・デザインと、プログラミングで参加。ギターの音は後退し、流麗なエレクトロ・サウンドへとモデルチェンジ。yukihiroがデザインする音は極めて端正で、THE NOVEMBERSの美意識を強調しながら、彼らを新境地へ導いたと言えるだろう。これまでの作品でも、エレクトロニクスと生音の融合は行われてきたが、ここまで作品の中核を担うことは初めてのはずだ。

 さて、個人的に最も惹かれるのは、「消失点」や「楽園」のトライバルなリズム、オリエンタルなムードである。今ほど音楽で踊ることを期待していることはない。「今作は2020年以降のサウンドトラックになると私たちは考えています」とは小林の言だが、なるほど、この能動性こそ失われてしまったもの。希求すべき未来そのものだろう。果たしてそれはどんな形で取り戻せるのか。新しい関係、新しいシステム、新しい価値観、そして新しい笑い方ーー本当の共生へと踏み出せるのか試されている、そんな時代を生きているのだ。

 彼らは歌う、<本当の世界が見えるかい>と。未来とはすなわち変化である。

THE NOVEMBERS『At The Beginning』

2020年5月発売
¥3,080(tax in)
MERZ-0209

1, Rainbow
2, 薔薇と子供
3, 理解者
4, Dead Heaven
5, 消失点
6, 楽園
7, New York
8, Hamletmachine
9, 開け放たれた窓

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