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文: 安藤エヌ 編:DIGLE MAGAZINE編集部
多様性社会となった今、学校に通う10代の若者を巡り新たな問題が浮上してきている。LGBTQ+の当事者である学生に対しての理解不足や差別意識に起因した、いじめや嫌がらせが後を絶たないのだ。
平成29年(小・中学校)・平成30年(高等学校)に公示された新学習指導要領には「性の多様性」の項目は盛り込まれなかった。時代に沿いながら多様化する現代において、教育の場である学校はLGBTQ+のしかるべき知識と理解を推進し、教育していくべきだが、日本の学校における教育現場ではいまだ不十分といえる状況だ。そんななか、「思春期になると異性への関心が芽生える」という文言に徹さないよう、各出版社が独自の判断でLGBTQ+に関する記述を増やす取り組みを行うなど、徐々に変化の兆しも見えてきている。
このように、小・中・高で使用される教科書の中には、LGBTQ+や性の多様化への説明が載っているものもあるにせよ、海外で積極的に行われているような専門的な分野に根ざすLGBTQ+教育は日本ではまだ行われていない。海外では先進的な教育が普及しており、フランスでは保健体育という科目で性について学ぶのではなく、より専門性に特化した科目として、生命誕生の仕組みや染色体の役割と一緒に、性自認や性的指向について学ぶ。フィンランドでは、人間生物学や健康教育といった科目で、セクシャルマイノリティ当事者たちがどのようにパートナーとの関係を築いてきたかなど、歴史的変遷を通して理解を深めていく授業も行われている。
そういった海外での包括的な教育が進む一方、近年問題視されているのが、日本の学校教員によるLGBTQ+教育だ。教育の現場では、子どもたちに教えるべき立場である教員がまず率先して学び、深い理解を得ることが重要だが、日本ではそういった面でも遅れを取っている。LGBTQ+当事者の子どもに対する不適切な発言・間違った対処や指導が、生徒同士のいじめや嫌がらせに繋がるというプロセスが出来上がってしまっているのだ。
これらを防ぐには、子どもたちに教育する内容やそのやり方だけでなく、教えるべき立場の教員が正しい理解を得られるよう、学校全体でLGBTQ+を学ばなければいけない。そうした現状に、近年では教員を対象にした研修やワークショップの実施、養護教諭やスクールカウンセラーを設置する学校団体が増え始めてきた。大切なのは、大人も子どもも等しく、性のあり方が多様化する社会に生きる者としての自覚と学ぶ姿勢を持つことなのである。
LGBTQ+を題材にした、10代が主人公かつ学校が舞台となる映画では、当事者である主人公の周囲が彼/彼女に心ない言葉を吐き捨てたり、差別的な発言をする場面がたびたび見受けられる。Netflixで配信されている『ぼくたちのチーム(邦題)』はゲイの男子生徒が主人公だが、「お前にルームメイトがいないのは夜這いさせないためだ」「エイズになる」など、全寮制男子学校という閉鎖的かつ同調意識の高い空間で、生徒たちは軽口を叩くように彼を差別する。同じような図式は自伝的青春映画『ウォールフラワー』にも描かれている。学校というコミュニティは、閉じた組織であるがゆえに当事者たちの居場所がなくなりやすく、差別やいじめが深い苦しみと閉塞感を引き起こすケースが少なくない。また会社と同じように毎日通う場所である、というのも心を圧迫させる。いじめを苦にして不登校や引きこもり、最悪の場合には自殺を選択してしまうという事態にもなりかねない。
性的少数者に対するいじめは、私たちが思っている以上に深刻なのだということを心にとどめておかねばならない。こうした映画は、露骨に思えることもあるが、限りなくリアルに即した演出で私たちの意識に問いかけ、少しでも学校で過ごす当事者たちが健全に毎日を送れるよう、事態を改善していくべきだということを訴えかけている。
これからの時代、ますます性の多様化が進み、若い世代が抱える悩みや苦しみが多くなっていくだろう。そんな最中、2018年に上映された『カランコエの花』という映画が話題を呼んだ。
同作は、自主制作された39分のショートムービーで、<レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)>のグランプリほか、あらゆる映画祭の各賞を獲得した作品だ。小規模の映画館で上映されていた同作だが、内容の真摯さやLGBTQ+に対する気づきの多さなど、世代を問わず学ばせられる作品として高く評価された。
とある学校を舞台にし、LGBTQ+当事者の周囲の視点から、「クラスメイトの中にLGBTの生徒がいる」という事実を知らされた生徒たちの姿を描いた同作。劇中には教師が登場し、生徒たちに向けてLGBTQ+とは何かということを教えるのだが、明らかにその説明は不十分で、動揺した生徒たちの誤解を招いてしまう。教えるべき立場である教員の理解が、明らかに不足している現状を、映画を通して指摘しているのだ。
上映終了後にも企業や学校団体の独自のワークショップで上映が行われたり、研修会で資料として使用されたりするなど、多くの人の目に触れることになった『カランコエの花』。これは、前述した日本における教育問題の改善策として、ワークショップや研修会などのアクションに通じた大きな一例だ。実際、同作を上映した団体からは「当事者の視点のみならず、周囲の人物の視点からも考えられる」「答えを明示していないから考えさせられる」などの声が寄せられた。
胸に迫るストーリーながら、ただ「感動した」だけでは終わらない、自分自身でLGBTQ+について考えを及ばせるきっかけとなるような作品が、教育の現場でも上映されていることは大きな功績といえるだろう。こうしたアクションのひとつひとつが、日本におけるLGBTQ+当事者たちへの理解を深め、平等かつ未来ある場所を増やし、何よりも今を生きる10代の若者たちが生きやすくなる世の中をつくっていくのだ。
性自認は思春期のころに経験することが多いといわれている。今、まさに性自認に関して悩んでいる10代も多いことだろう。そんな中、学校で心ない言葉を投げかけられたり、誰も理解してくれないと孤独を感じることは、何よりもつらく、心細い。大切なのは、誰もが生きやすい社会を整え実現することだ。そのためには正しい知識と理解、変わっていく勇気とアクションが必要であり、その積み重ねで未来はより良いものになっていく。未来ある若者たちを見届けるため、これから歩む道を照らしていくため、私たちに何ができるのだろうかと考える時間を持ってみてほしいと願う。周囲のサポートで、初めて自分を受け入れられる子どもたちもいれば、近くにいる人間が理解の意志を示して初めて、思いを打ち明けてくれる子どもたちもいるだろう。私たちは彼らを見守る立場として、これからの日本の礎をつくる側として、よりいっそう世界に目を向け、今できることをひとつずつやっていくことが必要なのだ。
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