不要なものなんてない。才気あふれるベッドルームポップアーティストのzuniのDIY精神|early Reflection

Interview

文: riko ito  写:遥南 碧  編:Miku Jimbo スタイリング:Taira Sakamoto

ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』。2024年5月度ピックアップアーティストとして、zuniが登場。

おとぎ話のような幻想的な世界観を音楽で表現するベッドルームドリームポップミュージシャン、zuni。彼女の作品は、日常で何気なく撮影した動画の音声や、思うままに弾いてみた鍵盤のフレーズなどを集め、それらを心の赴くままに作品に落とし込むことで形作られていくのだそうだ。そんなふうに作られる楽曲には、聴き手の耳を引く遊び心溢れるサウンドと、zuni自身が純粋に音を楽しむことで生まれる瑞々しさが詰まっている。

2024年5月8日にリリースされた新曲「can do」も、そうした“zuniらしさ”が存分に発揮された楽曲だ。友人を励ましたいという気持ちのまま歌詞を書き連ねたという本作は、これまでの作品の中でもより顕著に、前向きでポップなマインドが楽曲全体で表現されている。今回のインタビューでは、「とにかく音を楽しむ」というミュージシャンとしてのzuniの姿勢が身につけられるきっかけとなった原体験から、新曲の制作過程、そして今後の展望について存分に語ってもらった。

母との即興共作が曲作りの原体験

ーまず最初に、音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

中学生のときに、お姉ちゃんがギターを買ったんですけど、まったく使わなくて部屋に置いたままだったんです。それを私が使いだして、ギターの練習を始めました。お姉ちゃんが買った教則本に 「涙そうそう」とか簡単なコードで演奏できる曲が載ってて、それを使って練習してましたね。

ー作曲を始めたのはどのタイミングだったのでしょうか。

ギターを練習してたときにお母さんがいきなり部屋に入ってきて「曲なんて簡単に作れるのよ。ちょっとコード弾いてみて」って言って。私がコードを弾いてみたら、おもむろによくわからない歌詞を乗せて歌い始めたんです。「こんなのテキトーでいいのよ」とか言いながら(笑)。そしたらそれっぽい曲ができて、「こんな簡単でいいんだ」って思ったんです。それで自分でも作り始めたんだと思います。

ー曲作りのハードルが一気に下がったんですね。お母さんも音楽をやられてたんですか?

まったく。歌が大好きな可愛い人です。

ーご家庭でもよく音楽が流れていたり?

父のほうが音楽が好きで。ABBA(アバ)とか竹内まりやさんあたりが延々と流れてた感じ。今思ったら意外ですけど、シティポップやダンスミュージックが多かったですね。

ーSNSではThe Beatles(ザ・ビートルズ)やJET(ジェット)などのロックバンドの曲を弾き語りされていますが、ロックに出会ったきっかけは?

“ギターをやってるヤツ”になったら(学校でも)自然とロック好きな人たちと仲良くなるようになって。その友だちから全部教わった感じですね。あとはお姉ちゃんがバンドをやってたので、いろいろ教えてもらった気がします。(軽音楽の)部活やサークルに入ったことはないんですけど、楽器をやってた子たちで中学の文化祭に出たりして。でも、そのとき私はなぜかドラムだったんです。ほぼ8ビートしか叩けないんですけどね(笑)。

ーいろんな音楽に触れてらっしゃる印象ですが、リスナーとして一番グッとくるジャンルやアーティストはいますか?

ビートルズです。高校生のときにラジオで「Yesterday」を聴いてこれまでにないほど感動して。サイケな雰囲気の後期のビートルズにもすごくハマりましたね。アルバムだと『Magical Mystery Tour』(1967年)が一番好きです。

ーかなり衝撃的な出会いだったんですね。

世界が全然変わりましたね。「なんで知らなかったんだろう」「好きってこういうことだ!」みたいな。あとはビートルズを皮切りに洋楽をよく聴くようになって。The Beach Boys(ビーチ・ボーイズ)もそうですし、Beck(ベック)とかGorillaz(ゴリラズ)とかのビート系も聴いてました。最近だとサンプリングを面白く使ってる新しい音楽も好きですね。

ー“zuni”という名前をつけて活動を始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

曲作りは続けていて、良い曲ができたとは思ってたんですけど、自分だけで楽しんでたいから外に出すのが怖かったんです。嫌だなと思いつつ、聴いてほしい気持ちもあったのでテキトーな名前をつけて発表してみることにして。名前の由来は今は秘密なんですけどね(笑)。

ーすごく気になります(笑)。そこから活動に対するモチベーションに変化はありましたか?

2022年の夏頃に「この名前でこっそり始めよう」って思ってSoundCloudに曲をあげていたら、ある深夜開催のイベントに呼ばれたんですよ。ひっそりとやってたのによく見つけてきたなって(笑)。こじんまりとしたイベントだからいいやと思って出たら、「僕らが一緒に音楽やるよ」って言ってくれる人と出会えたんです。それから今もベーシストとドラマーと私でチームを組んで制作もしてるんですけど、前より音源が良くなっていって。好きって言ってくれる人が増えたし、いろんな人に聴いてもらえるようになっている実感もあって、モチベーションがだんだん上がっていきましたね。

ー制作の方法は、zuniさんがデモを作っておふたりに投げる、みたいな?

はい。基本的には私がドラムとベースのパターンを組んでるので、そこまでイメージから逸脱したものにはならないんですけど、それを元にいい感じにアレンジしてもらって返ってきます。

ーチームで制作を進める上で大事にしてることはありますか?

言いたいことははっきり言うことですかね。悪気なく言っちゃうんですよね。「え、全然違くない!?」みたいに。そうやって言うと笑ってくれるし、意見が違うときはちゃんと「こうだと思うよ」とも言ってくれるので、わりとスムーズに進んでいる感じはします。

ボイスメモに素材が2000個溜まっている

ーInstagramのプロフィールにはご自身の音楽性について“Dreamy bedroom pop”と表現されていますが、ジャンルへのこだわりもあるんでしょうか?

そこまでこだわりがあるわけではないんです。でも、家でずっとひとりで作ってることは事実で。私が作っているのは“自分の部屋”と“夢”と“現実”の境目がない状態の音楽だと思ってるので、その名前をつけたんだと思います。

ー聴く人が夢と現実の間にいるような感覚になれる音楽ということでしょうか?

というより、自分が作ってるときにそういう感覚になっているんです。音楽を作っているときも夢と現実が地続きになっている感覚で。

ー曲を作っていくときに大事にしていることはありますか?

音を楽しもう、とはずっと思ってますね。音楽的な理論とかコードのことは正直よくわかってなくて。でも「まとまってればよくない?」というくらいの気持ちではあるので、作っているときは楽しいんですよ。その感覚は大事にしようと思っています。

ーお母さんと曲を作っていたときの「純粋に音を楽しむ」という原体験が今でもzuniさんの姿勢に反映されているんですね。

たしかに! そのときも、あんまり難しいことは考えないでお母さんと曲っぽいものを作るのは単純に楽しかったので。変なコードをどんどん弾いてもお母さんがテキトーに合わせてきたり(笑)。そういう音楽の楽しみ方がずっとできればいいなとは思っています。

ー今楽曲を作ってるときも、自分が楽しいと思うものをそのまま反映させようとしている意識が強いですか?

不要そうなものでも、それを積み上げていって良い感じにまとまったら私の中では作品になるんですよね。日常のサンプリングとかテキトーに弾いた鍵盤の音とか、そういう音を集めてMIDI音源で楽器を変えて弾いてみたりしながら形にしていく、みたいな偶然性が好きなんです。もちろんちゃんと狙って作った音もあるんですけど、基本的に私が作りたいサウンドの根幹はそういう「楽しい」とか「面白い」と直感で思ったものを詰め込んでいると思います。

ー思いがけないものから曲が完成するということに、楽しさを感じている?

日常生活でもリサイクルショップとか、人がいらないって言ったものに惹かれるのかも。別に元の用途で使わなくていいんですよ。たとえば椅子なら、分解したり切ったりして木材として使えばいいから。椅子の足が太ければ彫刻もできるし、ゴミになるくらいならそこから何か作ってみようっていうのが基本的な考え方なのかもしれない。

ー音楽を作るときも、完成形が見えていない状態で作りだすことが多いのでしょうか。

集めているときは「この素材、使えるんじゃないかな」とは思うんですけど、それがちゃんと形にならない場合もあるし、逆にめっちゃ良い音になったりすることもあるので、いろいろいじりながら形にしていくことが多いですね。

ーそういう素材はどこかに溜めていたり?

ボイスメモが2000個くらいあります(笑)。溜めようと思って溜めているわけではないんですけど、探すのが大変なくらいあって。その中から引っ張り出してきたり、友だちと遊んでる動画の音声を使ったりします。

ー日々の記録が自然と曲になっていくんですね。

ビートは「こういうのがいい」っていうのがあるので、それを発端に作ったりもするんですけど、乗せていく音はそういう素材を使っています。歌詞はメロディと一緒に出てくる場合が多いですね。

ーよく歌詞のインスピレーションになるものはありますか?

作ってるときは何について書いた曲なのか自分でもあんまりよくわかってなくて。1冊の絵本を作るような感覚で曲を作ってるんですけど、自分ひとりで作ってるときはどんな曲なのか言葉にする必要がないんですよね。でも、リリースのタイミングで曲について聞かれたとき、説明のためにどんな曲なんだろうって思い返すというか。あとから絵本を読み返すような感覚で「あのときこういう気持ちだったんだな」ってやっと気づくんです。だから、特定のインスピレーション源は意識してないんですけど、お母さんや友だちについての曲や、人に向けて書いた曲もたまにあります。

ー今回リリースされた新曲「can do」もご友人に向けたものなんですよね?

はい。それもあとから気づいたので、意気込んで「こういう曲にしよう」って考えて書いたわけではないんです。しかも私はボツ曲がめちゃくちゃ多くて…。さっき言ったみたいにいろんな素材を集めて作っているので、10曲作っても2曲くらいしか形にならないんですよ。「こういう歌詞を作りたい」と考えて書いても結局ボツになる場合が多いから、何も考えないで作るのがいいんだと思います。

頑張らなくていいという友人への思いが表出した新曲「can do」

ー新曲「can do」も先ほどおしゃっていたようにビートから決めて作り出したのでしょうか。

そうですね。ビートを発端にメロディを作って、そこにいろいろなフレーズや歌詞を乗せた感じでしたね。最初のイントロはこだわってて、さっき話した日常で収録した音や楽器を弾いたフレーズも結構使ったと思います。

ーご友人に向けた曲だからか、言葉の使い方がすごく優しいなと思って。歌詞を書くにあたって意識したことって覚えていますか?

やっぱりあんまり覚えてなくて…。《君を守りたいの》っていうサビの箇所とコーラスが最初できて、そしたらその歌詞通りの気持ちになっちゃったんです。で、そのまま全部一気に書き上げましたね。

ー対象の友だちがいて、その人に向けて言いたいと思ったことを純粋に言葉にしたような感覚なんですかね?

その人に向けて作ろうと思っていたわけじゃないけど、作ってるときはずっとその人のことを心配していて。今思うと「どうしたら元気にさせられるかな」と思っていたのが自然と曲に反映されたのかなと思います。

ー《“ある”ことだけが正しいわけじゃないわ/これまで、これから 全てはそこにあるの》っていうフレーズは、相手への信頼がよく表れていますよね。

ずっと私が思っているようなことではあるんです。結構私は楽観的で、友だちに対して「いてくれるだけで良いのに」って思ったりするんですけど、友だちは何かを達成したり、それに向かって頑張っていたりすることが多いんですよね。そのままでいいし、頑張らなくていいんだよっていうことを伝えたくて、その思いが歌詞になっているんだと思います。

ー「can do」の中で、zuniさん自身が好きなフレーズはありますか。

サビのコーラスが好きです。2つのメロディが重なっているフレーズが個人的にめっちゃ好きで、最後のほうでメロディを重ねてるんですよ。Paul McCartney(ポール・マッカートニー)とかビーチ・ボーイズも二重メロディをよくやってて。私は吹奏楽もやってたんですけど、オーケストラも金管楽器と木管楽器のメロディを合わせることが多いんです。そういうのが好きなので、やってみたらハマって嬉しかったです。

ー間奏にもいろんなサウンドが入ってて、遊び心がありますよね。

基本的に音をたくさん入れるのが好きなんですけど、この曲に関しては、楽しい世界というか、「私は楽しくしているから、いつでもこっちに来ていいよ」みたいな感じも音で表現したかったんです。

ー音が可愛くてキュンとしました…。

ぜひ来てください。疲れたらこの世界に(笑)。

ーご友人を対象にしてるとはいえ、この曲もzuniさんの中で絵本のような世界観やイメージはあったんですか。

ありました。雲の上にある風船のお城みたいな、zuniハウス(笑)。「大丈夫だよ!」「疲れたらいつでもおいで〜!」って呼んでる感じです。

ー2023年末に出されたEP『PALN ROLAN』と直近の2曲「ICE TEA」「can do」は、雰囲気がガラッと変わったなっていう印象で。より開けた明るい楽曲になったように感じたのですが、制作時の心境が反映されているのでしょうか?

『PALN ROLAN』はロールパンナちゃんの黒いハートの部分をEPにまとめるという裏テーマで、自分の暗い部分をまとめたんですよ(※註:ロールパンナは『 それいけ!アンパンマン』のキャラクターで、正義と悪の2つの心を持つ。悪の心になった際は顔が緑色に変化)。だからジャケットも緑で(笑)。

できれば明るくいたいけど、私にもどうしても黒い部分はあって、意図的に出さないのも良くない気もするので、『PALN ROLAN』では暗い部分をぎゅっとまとめました。そのときに心境の変化があったというよりは、明るい曲と同時に暗い曲も常に作ってるという感じです。

ーロールパンナちゃんはzuniさんにとって何かの象徴なんですか?

かっこよくて優しいけど、それだけじゃなくて悪の心も持っていて、ずっと憧れているんです。

ー最後に将来のお話もお聞きしたいのですが、今後作ってみたい楽曲はありますか?

「can do」は、いろんな人に聴いてもらえるように明るくしようと試行錯誤した曲なんです。今まで人に聴かせるような曲はあまり作ったことがなくて、自分の中にあるものを形にして出してた感覚が強くて。スタジオライブもこの間やってみたんですけど、それもすごく良さそうで、みんなに聴いてほしいっていう思いはやっぱり形になるんだなと。だから、もっとみんなが楽しくなるような、聴いてくれる人をもっと意識した曲も作りたいなと思ってます。

ーzuniというアーティストとしての目標もありますか?

日本武道館に行きたいです! ビートルズが立ったところに。

ーご自身でMVのディレクションもされていますが、クリエイティブ面で挑戦したいことはありますか?

MVも今までは全部自分でやってたので、ちゃんとフォトグラファーも呼んだりして作りたいとは思っています。専門的な人たちってすごいなって思っていて。そういう尊敬できるクリエイターを集めて、プロフェッショナルな知識を全投入したMVも作っていきたいです。

RELEASE INFORMATION

New Single『can do』

2024年5月8日(水)リリース
レーベル:〈early Reflection〉

作詞・作曲・編曲・ミキシング/zuni
マスタリングエンジニア/Ishimoto Satoshi(mao music)※あらかじめ決められた恋人たちへ・LO LOET(Dub PA)

配信リンク

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zuni(ズニ)

日本のベッドルームドリームポップミュージシャン、zuniによるソロプロジェクト。2023年5月に1stアルバム『PLAYFUL』を発表し、その後もコンスタントに配信リリースを続け、2023年11月にはEP『PALN ROLAN』をリリースした。さらに昨年には、early Reflectionと音楽プラットフォームEggsによる共同オーディション企画『early Discovery 2023』の12月度early Discovery賞とEggs賞を受賞した。
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