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文: 黒田 隆太朗 写:Yosuke Demukai
本当にぶっち切った。80’sの空気を呼び覚ます煌めくサウンドと、四拍子のリズムで疾走していく「Fast Car」がいきなり最高。HIROSHI自身がバンドの集大成と語るように、『Emulsification』は彼らの音楽におけるひとつの到達点である。幼少の頃から親しんだブラック・ミュージックと、現在ロックバンドの最前線にいると言っても過言ではないThe 1975のサウンド・デザイン、そして10代の頃に熱狂したポップパンクの音を結合させ、独自の道を歩んできたFIVE NEW OLDは本作で確固たるアイデンティティを獲得した。
さて、本作のリードトラックではアフロビートが取り入れられているが、リズムというのは、最も明解な人類共通語だろう。これからは世界と日本を結ぶ音楽を目指すというFIVE NEW OLDにとって、図らずも自身の道を切り拓くような楽曲が納められているアルバムである。新作のタイトルが『Emulsification』(和訳:乳化)となった理由から、排他的な時代の空気の中で鳴らすべきポップの話まで、余すことなくHIROSHIの音楽観を語ってもらった。
ー新作の『Emulsification』、キャリア最高の1枚だと思います。
FIVE NEW OLDを結成してから現時点に至るまでの集大成になっている感覚があって、自分達のことを振り返りながら作ったアルバムになりました。このアルバムを作ったことでこれから先のことも見えてきた気がしますし、自分達にとって、ある種ひとつの終わりを作れたなと思います。
ー集大成的なアルバムができてみて、自分達のことをどう位置付けたり、どのような道を進んできたと思いますか。
ざっくり言うと、凄く矛盾を孕んだバンド人生だったところがありますね。それで今回「乳化」(Emulsification)というタイトルを付けているんですけど、音楽的なEmulsificationを行ってきた10年間だったと思います。
ーというのは?
結成した時点で「NEW」と「OLD」っていう反対の意味を持つ言葉を自分達に付けていて、初めから水と油を内包していたんですよね。僕らは最初、2010年代のFall Out Boy以降のエモやポップロックをやっていて、メロコアやパンクのロックシーンの中で、ラウドの人達と対バンをしてきたんですけど。そこでは近しいものはあるけど、やっぱりどこか混ざり切れないところはあって。さらにそこから音楽性が変わっていく中で、自分達はパンクのフィールドにいながら、だんだん周りの人達はFIVE NEW OLDをシティポップ的な観点で見るようになる。
ーそれが初期の歩みですね。
でも、すると今度は、自分達の出自だったラウドやパンクの要素が出てきて、(シティポップのシーンとも)混ざり合っているようでいて混ざり合わない部分があったんです。だから僕達はずっとそういうことをやってきているんだなと、改めて思いいます。歌詞を見ても、明るいことと暗いことを集約して、ひとつの答えにしていくっていう書き方をしているから。
ーいろんなものを取り込んで混ぜ合わせてきたという意味で、「乳化」という言葉を使っているんですね。
そう。「僕らは色々なことをやっているバンドです」っていうことを上手く言えなかったのが、ここにきて「乳化をしてきたんです」って言える。アイデンティティを再認識できたんです。新しいものに出会ったら、それを相反するものとして捉えるのではなく、いかに自分達の中に取り込んでいくのかを考えてきたから。星のカービィみたいなバンドです。
ー(笑)。新しいものを吸い込んで、自分の能力にしてきたと。
僕は洋楽に憧れを抱いた10代の頃から、今に至るまでそれをやってきました。だから今、日本の音楽シーンの中で、『Emulsification』というアルバムを出せたっていうことはひとつの集大成なんです。で、これからは日本のシーンと世界のシーンを一緒くたにして届けれられるような音楽を作ることが、僕達の次のチャプターなのかなと思います。
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