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文: 安藤エヌ 編:DIGLE MAGAZINE編集部
LGBTQ+への理解が徐々に推し進められつつある現代。セクシャルマイノリティ当事者たちと共に生きていく上で知っておくべき立場がある。「アライ」と呼ばれるその立場は、企業や団体を中心に広がり、当事者たちの思いを理解するために必要な心がけとして関心を持ち始める人々も増えてきた。
「アライ」とは、英語で「同盟、支援」を意味する「ally」が語源の言葉である。当事者ではない人が、彼らの立場や思いを理解し、誰もが他者と平等に生きるべきであるという理念を掲げるとき、この「アライ」という言葉をもってして自身の立場を表明する。
東京2020オリンピックの基本コンセプトにも含まれた「ダイバーシティ(多様性)」の理念は、アライにもつながる考え方でもある。多くの日本企業がアライを育成するためのプログラムや研修を行ったり、個人でも「自分はアライである」と表明し活動を行う人も現れ始めるなど、社会全体で促進されるべき考えとして波及してきた。
日本企業に見るアライへの取り組みとしては、野村證券がセクシャルマイノリティ当事者を指す言葉であるLGBTにアライの「A」を加えてLGBTAとし、アライが中心となる社会活動を推進。LGBTに関するイベントへの参加・協賛を行い、社員には当事者への理解を促すパンフレットなどを配布し、ほかにもギャップジャパンでは、全従業員向けのアライトレーニングを開発し、研修を行うなど、社内というひとつのコミュニティでも活発な活動が行われている。
日本マイクロソフトの取り組みで特筆すべきはその独自性だ。4つの社員コミュニティ( Employee Resource Group)があり、その中に「GLEAM(グリーム)」と呼ばれるLGBTとアライのコミュニティが存在する。セクシャルマイノリティ当事者である社員が、差別されることなく自分らしく働ける職場を実現するための場だ。
1993年に米国本社において発足したGLEAM。2013年にGLEAM Japanが結成され、LGBTQ+当事者が一丸となって差別や偏見をなくそうと声を上げるイベント<東京レインボープライド>に参加するなど、社内外問わず精力的な活動を行っている。
このように、日本企業がアライを増やすために行っている活動は増加傾向にあり、近年LGBTQに対する働きかけが包括的に増えているのもあって、アライという言葉も以前より聞きなれないものではなくなっている。
しかし、統計データの観点からアライの割合や認知度を見てみると、まだ十分とはいえない状況にある。
15歳~69歳の5000人を対象として行ったとある調査によると、「アライ」という言葉を知っていると答えた人は全体の7.7%と低い数値だった。言葉自体を知らない人がアライの考えに共感する、と答えた割合は53.8%。その内の69.1%は「アライとして行動していない」という実情だった。
共感しても行動しない理由の1位が「身近にLGBTQ+の人がいない」で、2位は「自分に何ができるかわからない」だった。このような実態の背景には、日本のジェンダーギャップ指数120位という結果にも裏付けされた「LGBTQ+に対する理解、認知不足」が関わっているといえる。企業や団体の働きかけは増えつつあるが、それでも日本という国がジェンダー思考において世界から遅れを取っていることは深刻な問題だ。
そんな中、同調査では「アライ」の考えに共感する割合は半分以上、なかでも10代は8割が共感を示した。ミレニアル世代のLGBTQ+に対する関心が大きいことは、Netflixをはじめとした大手配信サイトがクィア系映画やLGBTQ+コンテンツに注力し、該当の世代に届けていることが大きな理由とも考えられるだろう。柔軟に現代の様相の変化を吸収する彼らが将来的にアライとなる希望を見いだせる結果となった。
LGBTQ+コンテンツの話になったところで、実際に映画の中でアライが登場する映画を2作紹介する。どちらもNetflixやU-NEXTなど、主要配信サイトで視聴することができる。
まず1作目は『彼の見つめる先に』。
生まれつき盲目である主人公のレオは、優しいが少し過保護な両親と幼なじみのジョヴァンナに囲まれて、将来やファースト・キスを夢見るティーンエイジャーとしての生活を送っていた。そんな時、クラスに転校生のガブリエルがやってくる。彼は素朴な性格で、目の見えないレオを決してからかわない優しさを持っていた。そんな彼の優しさに惹かれつつも、一緒に過ごすうちに、レオの中のガブリエルへの気持ちにも変化が訪れる。
目の見えないレオを気にかけ、いつも身の回りの世話をしていたジョヴァンナ。ずっとレオの傍にいた彼女は、ガブリエルの登場とレオの気持ちの変化により疎外感を感じ、一度はレオと仲たがいをするが、最後には彼の恋を応援する立場に。ガブリエルが好きだというレオを理解して後押しする彼女は、アライに即した考えを持っており、映画ではレオ、ガブリエル両者にとってのキーパーソンとして登場している。
2作目は『アレックス・ストレンジラブ』。
主人公は高校生のアレックス・トゥルーラブ。彼女であるクレアとの初体験に慎重になっていた最中、エリオットというゲイの青年と出会い、どうしようもなく惹かれてしまう自分がいることに気づく。
自分の中のセクシュアリティに悩み、迷うアレックスと衝突しながらも、最後は優しく寄り添うクレア。『彼の見つめる先に』のジョヴァンナ同様、アレックスとエリオットの関係を後押しするクレアもまた、アライの考えを抱いたキャラクターだといえる。
このような映画は確かにアライの存在を描いており、LGBTQ+当事者たちの悩みや苦しみを理解する上で私たちをリードする存在になっている。しかしひとつ気になるのは、こういった作品に登場するアライは「当事者と親密な関係にあった女性」に限られる場合が多いことだ。
「たまたま当事者たちと親密であった女性」にアライ描写が偏りがちな傾向については、より脚本に広がりを持たせて改善されるべきであると1人の観客として思うことがある。なぜならば、「彼女たちと同じ境遇でなくても」アライになることは可能で、誰にでもアライになる権利は平等に与えられているからだ。
ここまでアライについて書いてきたが、具体的にアライとして私たちに何ができるのか?
それにはさまざまな方法がある。直接当事者たちに「アライである」ことを表明する(口頭で伝える、LGBTQ+のシンボルであるレインボーグッズを身につける)ほか、当事者たちがLGBTQ+であることをカミングアウトしても構わないと伝える、普段から差別を助長するような言葉を使わない(「レズ」や「ホモ」といった言葉は差別的なので使わないよう心がける)、悩んでいる当事者がいたら、話に耳をかたむける――どれも特別な準備は必要なく、明日からでも実行できることばかりだ。
そうして1人ずつアライが増えていくことで、より多様性への理解が広がった社会の実現に近づき、生きやすいと感じる人も増えるだろう。多様な人々が一同に介し生きる世界では、1人1人の働きかけが社会を、国を変えていく。
この記事を読んでアライの考えに共感し、明日からアライになるためのアクションを起こすきっかけとなれれば嬉しく思う。
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