Cettia(Vo. / Ba.)と佐々木理久(Gt.)からなるバンド、the pulloversが9月4日に3rd EPならぬ3rd ZINE『君なんていらないわたしになった』をリリースする。
まるで短編小説を読んでいるかのような情景描写、そして情感豊かなリリックと、オルタナティブな質感を有したシンプルなバンド・サウンドを武器に注目を集めるthe pullovers。バンド初期からの楽曲も収録された新作『君なんていらないわたしになった』では、より多彩なサウンドを展開。バンドが新たなステップへと上がったことを高らかに告げる快作となっている。
SSWの活動で違和感を感じたCettiaと、自身初のバンドの解散を経た佐々木理久。今回のインタビューではふたりの出会いからここまでの道のりをじっくりと語ってもらった。
――the pulloversの結成の経緯についてお聞きしたいです。そもそも、おふたりはどのようにして出会ったのでしょう?
佐々木理久:
元々大学が同じで、僕が1年生のときに入ったサークルで出会いました。そのとき、せっちゃん(Cettia)は3年生で。新入生歓迎ウィークの恒例行事として、学校の近くでやっていたお花見で音楽の話をした記憶があります。僕はそのとき別のバンドを組んでいたんですけど、せっちゃんは僕の仲の良いバンドとも接点があったり、そもそもひとりでSSWとして活動していて。「一体何者なんだこの人は」っていう感じでした。Cettia:
それから4月に行われた、新入生参加のライブ・イベントで一緒に組んでParamoreをコピーしました。それからそこそこ喋るようになった感じかな。――そこからどのような流れでthe pullovers結成に至ったのでしょうか。
Cettia:
理久くんのやっていたバンドからボーカルが脱退することになり、新ボーカルとして加入してくれないかって誘われたんです。でも、私の中で「バンドをやるなら絶対に3ピース・バンドがいい」っていう謎のこだわりがあったので、4ピース・バンドだった理久くんのバンドはお断りして(笑)。佐々木理久:
正直、そのバンドは僕にとって初めて組んだバンドだったので、「もう音楽はいいかな」とも思ったんですけど、でもふとしたときに「やっぱりバンドやりたいな」っていう思いが湧いてきて。そのタイミングでせっちゃんの初めてのワンマンを観に行って、改めて自分の周りで最もリスペクトできる人間だなと感じたんです。せっちゃんもなんとなくバンドやりたがってる気もしていたので、この機会に声を掛けてみようと。Cettia:
そのとき、ちょうど私は自分のSSWとしての活動に悩んでいた時期で。ひとりで音楽を続けることに対して限界を感じていたというか。SSWとしての活動は16歳頃から始めたんですけど、そのときは尖っていたので、「全部ひとりでやりたい」っていう気持ちが大きかったんです。でも、活動していく中で色々な人と出会い、人と一緒に何かをすることの楽しさにも気づき始めた時期だった。そういうものが色々と重なったタイミングで理久くんから声を掛けてもらえて、運がよかったなと思います。――当時自身の活動に対して抱いていた悩みや障壁などについて、差し支えなければもう少し具体的にお話頂けますか?
Cettia:
高校生になってから色々なオーディションなどを受けるようになって、とあるオーディションで特別賞を頂いたんです。その流れで事務所にも所属させてもらって。YouTubeでしか見たことないような有名なバンドやアーティストさんとお会いしたりできて、自分の世界が広がったような感じですごく嬉しかったです。――なるほど。では、バンドの歩みに入る前に、おふたりのルーツもお聞きしたいです。音楽に興味をもったきっかけなどをそれぞれ教えて下さい。
Cettia:
私は一番最初に音楽に興味を持ったのは、小学生のときにDVDをレンタルして観た『タイヨウのうた』というドラマで。難病で日光を浴びれない主人公が、夜に弾き語りをしている姿に憧れて、親にギターを買ってもらって弾き始めました。曲を作り始めたのはその後、15歳くらいの頃。学校や家のことで辛くなった時期があって、そのしんどい気持ちや感情を歌詞にして歌うようになりました。当時は自分の思ってることを人に話たりするのがすごく苦手で、そういうモヤモヤとした自分の内面を音楽でアウトプットすることは、あのときの自分にとってはすごく救いになって。――当時はどのような音楽を聴いていましたか?
Cettia:
音楽活動を始めてからはより色々な音楽を聴くようになって。最初はYUIさんのような女性SSWだったり、Avril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)など、女性アーティストに惹かれることが多かったのですが、そこからどんどん広がっていきました。バンドやヒップホップ、アイドルまで、細かく網羅しているわけではないのですが、自分がいいなと思ったものはジャンルやスタイル関係なく聴いています。――では、理久さんのルーツについても教えて下さい。
佐々木理久:
僕は色々な音楽を聴いてきているのですが、原体験的な部分でいうと、原体験的な部分でいうと、親が好きだったQueen(クイーン)やVan Halen(ヴァン・ヘイレン)、Earth, Wind & Fire(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)など、70〜80年代の洋楽が車でかかっていて、小さい頃からそういった音楽に触れていました。邦楽の扉は小学生のときに聴いたいきものがかりやポルノグラフィティで。その後中学生くらいから日本のバンドにハマって、UVERworldやKEYTALK、高校時代はくるりやNUMBER GIRLなども聴いていました。――ギターはいつ頃から始めたのでしょうか?
佐々木理久:
中3のときに、友だちに誘われる形で始めました。僕、それまでは全く楽器ができなくて。幼少の頃に少しだけピアノを習ったんですけど、弾きながら寝ちゃうくらい向いてなかったんです(笑)。でも、ギターだけは不思議と続いて、高3のときに初めてバンドを組みました。そのバンドは短命ではあったんですけど、<未確認フェスティバル>の3次審査でTSUTAYA O-WESTに立たせてもらったり、色々な経験を積むことができました。――では、そんなおふたりがいざthe pulloversを結成するにあたって、当時はどのような方向性やヴィジョンを共有しましたか?
佐々木理久:
「売れたい」というよりは「長く続けたいね」っていう話をしていたような気がします。Cettia:
そうですね。ちょうど先程お話したような、「売れる」ことに対してモヤモヤしていた気持ちを抱いていたこともあって、「自分たちのやりたい音楽をやろう、その過程で好きになってくれる人がいたらいいね」っていう話をしていたような気がします。あとは特にこれといって話し合わなかったよね。――なるほど。
Cettia:
バンドとして一番最初に完成させた「この歌にのって」という曲には、そういったスタンスや姿勢が現れていると思います。バンドを組む前から個人的に温めていた曲なんですけど、私が歌うこと、音楽活動をやる意味や意義についても歌っている、私にとってもthe pulloversにとっても大事な作品だと思っています。――ちなみに、the pulloversというバンド名の由来は?
Cettia:
理久くんが「服の名前にしたい」って言い出して、色々出し合った結果the pulloversになりました。特にこれといった意味はないです佐々木理久:
なんで「服の名前にしよう」って言い出したのかはもう覚えてないんですけどね。Cettia:
当時、私がすごく気に入っていたウィンドブレーカーがあって、「ウィンドブレーカーズ」ってよくない? って言ったら「ダサい」って却下されて(笑)。その代わりに理久くんから提案されたthe pulloversに決まりました。佐々木理久:
実はthe pulloversっていう名前自体、僕がいつかどこかのタイミングで使いたいなと考えていた名前でして(笑)。Cettia:
え? そうなの?佐々木理久:
うん。今初めて言ったけど(笑)。何か響きとか語感もいいので、いつかバンド組んだら使おうと考えていて。採用されて本当によかった。―そんなthe pulloversは2019年に始動しましたが、1stシングルから最新作に至るまで、音楽パッケージをCDでなくZINEという形態で発表する少し変わったスタイルを取っています。こういったアイディアはどのようにして生まれてきたのでしょうか。
佐々木理久:
最初、CDを作るか作らないかで結構揉めて。せっちゃんは配信だけでもいいんじゃないかって言ってたんだけど、僕はフィジカルへの思いが捨てられなくて。その落とし所として、「ZINEってどう?」って言ったら、せっちゃんも「いいね」って言ってくれて。元々僕はZINEが好きで買って集めたりしていたのと、写真も自分で撮っていて。Cettia:
色々なZINEを見せてもらって、最初は参考にしながら作っていきました。理久くんの写真と、私は歌詞以外にも文章を書くことが好きなので、曲にまつわる短い短編物語りを載せて。佐々木理久:
これだったら無機質な感じにならないし、自分たちとしても納得のいく形で作品を残せるなと思いました。せっちゃんの文章を改めて読むと、曲に対するイメージがより色濃くなるなと感じますね。――9月には3rd ZINE『君なんていらないわたしになった』のリリースを控えています。ご自身ではどのような作品になったと感じていますか
Cettia:
前作はコンセプチュアルな作品だったのですが、今作に関してはそこまで固まったコンセプトやテーマはなくて。しいて挙げるとするならば、色々なタイプの曲を入れたいっていうことは考えていました。――「結末」はメロウに始まりながら、徐々に熱量が増していく楽曲ですよね。こういった展開はエモやポストロックからの影響なのかなと感じました。
佐々木理久:
サウンド面で言えば僕は意識しています。「結末」はサポート・ドラムのあべさん(あべゆうま)と一緒にアレンジしていったのですが、「聴いている人がドキドキするような曲にしよう」という話はしていて。あべさんの細かい仕掛けが効いた曲に仕上がったかなと思います。僕もギターのストロークを変えてみたり、アルペジオを多用したり、色々なアイディアを詰め込んだつもりです。Cettia:
リード・トラックっぽい曲にしたいとは言いつつも、いわゆる普通のギター・ロックにはしたくないという思いもあって、結果的にはかなりオルタナな作品になったと思います。個人的には1st ZINEに収録している「うみべの男の子」と歌詞がリンクする部分もあり、続編的な位置付けの曲と言えるのかもしれません。――『君なんていらないわたしになった』というタイトルは、第2弾先行配信シングル「だめおんなぶるーす」の一節ですよね。この曲はどのようにして生まれた曲なのでしょうか。
Cettia:
2019年にYouTubeに弾き語りの映像をUPしているんですけど、その日のうちにメロディも歌詞もできた曲です。友人と色々な話をして、女性の強さだったりしたたかさを書きたいと思って、YouTubeの概要欄に書いてある通り、女性に向けて作った曲です。実際にその友人は深刻に悩んでるんですけど、そのもがき苦しんでる姿がめっちゃ人間っぽいなと思って。その友人の気持を想像したり、実際に「どういう風に感じているの?」って聴いたり、自分の過去も思い出したりして、インスピレーションを受けながら書きました。――ファジーなギターが炸裂するパンキッシュな「fallen baby」も、今作の幅を広げている作品ですよね。
佐々木理久:
以前のサポート・ドラマーが大のグランジ好きで。彼が「グランジっぽい曲やりたい」って言ってたので、「じゃあ、ファズを踏みますか」と。それでできた曲です(笑)。Cettia:
私はTHE BLUE HEARTSみたいなパンクをやりたいって言ったんですけど、ぜんぜん違う曲になりました(笑)。歌詞には青春であったり、青春特有の鬱屈とした感情を乗せたつもりです。――最後を締めくくる「雪解けのうた」は軽快なビートと明るい曲調で、これもthe pulloversのこれまでの作品とは少し異なる表情がみえた気がします。
佐々木理久:
曲作りにおいて、コードだけ僕が提供することもあるんですけど、この曲もそうやってできた曲で。そのときThe Backseat Loversというアメリカのインディ・バンドにすごくハマっていて。引き算の美学が光る、彼らからの影響が強く出た作品だと思います。Cettia:
私からはこういった明るい曲調の作品は中々出てこないので、新鮮な気持ちでしたね。歌詞も明るい雰囲気にしたかったし、ちょうど冬の終わりだったので春の曲にしようと。でも、タイトルは「雪解けのうた」っていうところに私の捻くれた部分が出てしまっています(笑)。――Cettiaさんが持ってくるものもあれば理久さん発信のものもあったりと、the pulloversとしては色々な曲作りのパターンがあるんですね。
Cettia:
そうですね。私も色々なジャンルの音楽を聴くんですけど、体系立てて聴くタイプではないので、理久くんのアイディアや知識にはいつも助けられてます。あと、突き詰めて言えば私は歌えればいいし、理久くんのことは信頼しているので、お任せすることも多くなってきました。――Cettiaさんは作曲、作詞においてどのようなところからインスピレーションを受けることが多いですか?
Cettia:
うーん、なんだろうな……。the pulloversでは日常のことだったり、日々感じる感情を歌っているんですけど、さっき話した「だめおんなぶるーす」のときは、ちょうどそういうモヤモヤした気持ちが溜まっていたタイミングだったんだと思います。日々生きている中で感じる色々な感情などがコップにどんどん溜まっていって、溢れてきたときに曲がバーって書ける、そんな感じですかね。――これまでの作品は切なさであったり悲しみであったり、どちらかというと負の感情がトリガーになっているものが多いように感じます。それはご自身の性格というか、気質に起因していると思いますか?
Cettia:
はい、かなり。ひとりでやっているときの方がよりその傾向が強かったですね。佐々木理久:
これは客観的に見ている僕からの感想なんですけど、せっちゃんは本当にいい歌を歌うけど、負の感情が原動力であるが故に悩むことが多くて。しかも、自分のメンタルがよくないときに限ってめちゃめちゃいいライブをしてくれるんです。なので、傍から見てると結構心配になるんですけど、「頑張って……!」って応援するしかない(笑)。Cettia:
安定しているときより、感情の浮き沈みがあったときの方が曲ができるんですよね。あとは根が本当にネガティブなので、楽しいときでも「この楽しさもいつかは終わるんだよな」って考えてしまったり。でも、個人的にはそれを悲観的には捉えていなくて。そういう感情も曲にして残しておくことで、後から振り返るといい思い出になったりするんですよね。――新作『君なんていらないわたしになった』は結成2周年記念日にリリースされますが、そろそろ3年目に突入しようとするなか、おふたりはthe pulloversのアイデンティティ、“the pulloversらしさ”をどのように考えていますか?
Cettia:
the pulloversで歌っていることは私の感情なんですけど、こういった感情ってみんなも日々感じているものなんじゃないかなって思っていて、代弁していると言うのはおこがましいですけど、みんなの生活に寄り添えるような音楽、それがthe pulloversらしさって言えるのかなって。佐々木理久:
バンドとしてのスタンス的な部分はせっちゃんと同感で。サウンド的な面を話すとすれば、最近は音数の多い、四方八方で音が鳴っているような曲が人気な傾向にあると思うんです。でも、個人的にはそういう曲は苦手で、僕は元々引き算のアレンジが好きなのと、このバンドではせっちゃんの歌が絶対的にいいので、結成当初からそれを邪魔しないことを心がけていて。聴いている人が入り込める隙間を絶対に残したいと考えながら、いつも曲を作っています。――では、the pulloversの今後の展望は?
Cettia:
一番の目標は長く続けていくということですね。それさえ叶えばあとは何でもいいやってくらい(笑)。今のこの状況もそうだし、音楽を取り巻く環境はどんどん変わっていくと思うんですけど、自分たちらしく、やりたいことを続けるためにも、そういう変化には柔軟に対応していければなと。佐々木理久:
確かに(笑)。Cettia:
この楽しい場を失いたくはないし、歌うということも私の生活にとってはなくてはならないものなので、大事にしていきたいですね。――では、理久さんは?
佐々木理久:
せっちゃんとは夜の野外でやりたいねっていう話はずっとしていて。個人的には<RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下:RSR)>に出たいです。2019年の<RSR>でいわゆるゴールデン・アワー、夕暮れ時にHomecomingsのライブをビール飲みながら観てたのですが、あまりの気持ちよさに気づいたら寝てて(笑)。――ハハハ(笑)。
佐々木理久:
そういうステージを自分たちもやりたいんですよね。もちろん、北海道で美味い飯を食いたいという気持ちもありますし(笑)。Cettia:
(笑)。でも、the pulloversってそういう感じだよね。自分たちが楽しくやりたい。もちろんその中でお客さんに響いたらすごく嬉しいし、日常生活であった嫌なことを忘れられたり、逃避できる場所がthe pulloversのライブや音楽であってほしいなって。RELEASE INFOMATION
New Digital SG「だめおんなぶるーす」
2021年8月25日(水) 配信
3rd ZINE「君なんていらないわたしになった」
2021年9月4日(水)発売
【Tracklist】
fallen baby
meteorologist
結末
戯言
だめおんなぶるーす
雪解けのうた
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