文: 蜂須賀ちなみ 編:Miku Jimbo
女性にとってのヘアゴムとは、邪魔な髪を束ねて扱いやすくしてくれるアイテムであり、アイラインとは、自分の目をタレ目にもつり目にも変えてくれるアイテムだ。そしてこの2つをモチーフとした楽曲「ヘアゴムとアイライン」でメジャーデビューしたのが、今回紹介するtonari no Hanako。散らかったものを整理することも、“なりたい自分”を演じながら気丈に振る舞うことも円滑な社会生活を送る上で必要なことであり、生きる術だが、悲しくて泣き出したくなる出来事が起きても、朝になれば出社できてしまう日々の中で、私たちは、自分自身の居場所を、自分自身の心の中からすら無くしてしまったりする。そんな時、本当は吐き出してしまいたかった気持ちの拠り所になってくれるのが、tonari no Hanakoの音楽だ。つらくても時計の針は止まってくれない、ゆえに歩き続けなければならない人生の中で、夢のように甘く浮遊感のある歌声が、あの日隠した心の痛みを包み込んでくれる。自分の中に“強くなれない自分”がいることを許してくれる。
ボーカリストでほぼ全ての楽曲の作詞・作曲を担当、tonari no Hanakoの世界観を決定づけるプロデューサー的ポジションのame。音楽だけではなく視覚芸術にも自分の思い描く世界を投影したいというameの想いを汲み取り、映像を通じて表現するVJ/映像ディレクターのsobue。同じくameからHanakoとして作品を表現するビジュアル担当を任せられた、若手モデルのアイビー愛美(MVやアートワークに出演)。この3名から成るクリエイティブユニットがtonari no Hanakoだ。先に名前を挙げた「ヘアゴムとアイライン」はameが詞を提供した河口恭吾の楽曲のセルフカバーで、2022年9月にリリースされたメジャーデビュー曲。そして同年11月に発表されたメジャー2ndシングル「傷を隠して」は、ユニットのテーマ“切ないほど、人生は、愛しい”をまさに体現した曲と言えるだろう。《傷を隠して 生きてきたって/分かるよだって 同じだった》と歌うこの曲は、似たもの同士だからこそ惹かれ合った二人の出会いを祝福する曲だが、一方、“あなた”=過去の自分と解釈すれば、どこまでいっても人は孤独だという虚しさや、その真理と向き合うことで過去の経験が昇華される感覚を歌った曲に変化する。
そんな2曲を経て、メジャー3rdシングル「ぜんぶ忘れてしまうって」が1月11日にリリースされた。ピアノリフに導かれて歌い出すこの曲の主人公は恋人と別れた人で、《深夜コンビニの雑談》を筆頭に二人の思い出を列挙したのち、《ぜんぶ忘れてしまうって/いいのかな?》《あなたいらないの?》と元恋人に語りかけている。歌詞における言葉遊びやボーカルのニュアンスのつけ方、サウンドも相まって、ポップでかわいらしい印象だが、“人の記憶は有限だから、早く戻ってこないとあなたとの愛おしい思い出も忘れていっちゃうよ”と相手に突きつける歌詞からはちょっとした毒が感じられる。と同時に、強がりながらも、もう戻ってこないと分かっている様子が全体から滲み出ているし、最後の《忘れ方さえも ぜんぶ忘れてしまうって いいの?》に関してはおそらく自分自身に向けたものだろう。つまり、相手に“後悔したって知らないよ”と伝えている強い女の曲に見せかけて、“会いたい”、“会いに来てほしい”という未練を歌った曲なのではないだろうか。
そしてそもそも強い人なんて存在せず、“今までの経験が今の自分を形成している。だからつらい経験にも必ず意味がある”と思えなきゃやっていけないという気持ちで生きている人が、外からは“強い人”に見えるというのがこの世界の内実だ。颯爽としている人に泥臭さを見出すやさしい眼差しを持ち、今を生き抜こうというバイタリティに満ちたtonari no Hanakoの音楽は、今後ますます多くの人の拠り所になっていくことだろう。
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
tonari no Hanako メジャーデビュー記念 SECRET LIVE「春めく花葬」
2023年3月24日(金)東京・渋谷区某所(詳細はチケット購入者にのみご案内)
開場18:00/開演19:00(終演20:30予定)
全席自由前売り¥4,400(別途ドリンク代)
チケット抽選受付: 2023年2月12日(日)23:59まで
チケット購入ページ
https://eplus.jp/tonarinohanako/
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