インディーシーンで異彩を放つJohnnivanに起きた変化。愛と死別を軽やかなサウンドで包みこむ3rdアルバム

Interview

文: riko ito  写:遥南 碧  編:Miku Jimbo 

日本/韓国/アメリカといったさまざまなルーツを持つメンバーで構成された多国籍バンド・Johnnivanが、2024年11月に最新アルバム『Swimmer』をリリース。前作発表後はアジアでの注目度も高まっている彼ら。より風通しの良い環境下で制作に取り組めたという今作は、制作においてさまざまな変化があったという。そんな最新作について、メンバー全員に話を聞いた。

“生楽器とダンスミュージックの融合“をテーマに、ジャンルや国の縛りを感じさせない独特の存在感を持つバンド・Johnnivan。早稲田大学の音楽サークルで出会い、日米韓の多国籍なメンバーで構成されている彼らは、アジア各国をはじめグローバルに活躍の場を広げるアーティストが増えている日本のインディシーンの中でも、ひときわ異彩を放っている。

そんなJohnnivanが、2024年11月27日に3rdアルバム『Swimmer』をリリースした。1stアルバム『Students』(2020年)と2ndアルバム『Give In』(2022年)では、精神面・環境面で制約を受けることも多かったが、本作ではより自由が担保された状態で制作に臨めたそう。コアとなる楽曲は、“死別”という一見深刻な雰囲気を纏いがちなテーマを据えつつも、メンバーの身軽なマインドが風通しの良いダンサブルなサウンドに昇華され、“死別を受け入れて、光を見出していく過程”が見事に表現された作品となった。

では一体、この2年間でバンドにどのような変化が起こったのだろうか? 今回は、5人全員に集まってもらいインタビューを敢行。本作についてはもちろん、前作からの変化や直近のバンドのムードについて、ざっくばらんに語ってもらった。

前作までの経験を糧に。今のJohnnivanが詰まった最新アルバム

ー前作『Give In!』リリース後は、韓国のフェスに出演するなどアジア圏での注目度が高まってる印象があります。みなさんの手応えはいかがでしょうか?

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Shogo Takatsu(Key.):

海外でライブをするのはずっと夢のひとつだったので、単純に嬉しいですし、実際に行ってみたら自分たちが思っていたより反応がよかったですね。

ー韓国と日本の音楽シーンの違いは感じましたか?

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Junsoo Lee(Gt.):

国民性の違いだと思うんですけど、たとえばInstagramも含め、オーディエンスのリアクションの量が多くて。あとはアーティストに声をかけるのも、ためらわずにグイグイくるような印象がありますね。
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Shogo Takatsu(Key.):

新しい音楽に敏感なファンが多いイメージです。フェスに出たときも、1曲目のときは5列目くらいまでしかお客さんがいなかったんですけど、いい音楽をやっていれば最後はパンパンになっていくというか。それは他のアーティストを見ててもそうで、「カッコいいな」と思ったアーティストはやっぱり盛り上がってるし。

ー海外ライブを経て、自分たちの曲作りに影響はありましたか?

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Shogo Takatsu(Key.):

今回のアルバムは韓国に行く前にほぼ書き終えた曲ばかりだったので、そういう意味だと次に繋がるのかなっていう。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

内容がまだ固まってないので表現しづらいんですけど、次作の方向性については、韓国に行ったことがインスピレーションになっています。今まではライブでも作曲でも「100%自分が満足いくか」ということだけを気にしていたんですけど、韓国に行って(観客に対する)責任感というか、自己表現にプラスして観てくれてる人たちとのコミュニケーションが起きてることを実感して。それを当たり前だと思っちゃいけないってすごく感じました。
 
ただ作曲になると、お客さんがどう思うかを気にしたら終わりだと思うので、作曲モードのときは一旦それは全部無視するんです。モノができたあとは、ちゃんとダイアログになってないとダメだなと。これまで自分の世界に篭りがちだったので、少しオープンになったような気がします。

ー3rdアルバム『Swimmer』は、今までの作品よりサウンドが軽やかになっていて、よりクラブミュージック寄りであったりダンサブルな印象が強い作品でした。心境や曲作りの面で何か変化があったのでしょうか。

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Johnathan Calrissian(Vo.):

1stと2ndは「今まで起きたこと」をまとめている感覚だったんですけど、今回の『Swimmer』の曲たちは、自分に起きたことを「すぐに書かないと」みたいな気持ちが強くて、よりリアルタイムな表現になっているのかなと。だから、自分に何かが起きてそれが曲になるまでの間と、曲になってからみんなに渡すまでの時間、みんなに渡してから完成するまでの時間の全部がギュッと短くなっているような気がしますね。「自分の気持ちを整理したい」とか「感情を理解したい」っていう意味ではやってることは今までと一緒なんですけど、ペースが速くなったような気がします。
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Shogo Takatsu(Key.):

これまでと比べて比較的スムーズに進んだかなと思っています。というのも、1stは初めてのアルバム制作だったので、やろうとしていることがなかなか表現できず、すごく時間をかけましたし、2ndはトラブルもあってリリースまで辿り着くのに苦労して。それを受けて3rdアルバムのプロジェクトが始まるときに、「どういう形で始めようか」という議論もしたんですが、始めてからは前作までの経験が活きていることを実感しましたね。お互いの好みを理解して「彼がこう弾いたらこういうプレイになるだろう」ということも大体わかっている状態で進められました。
 
さっきJohnathanが「リアルタイムで作曲してみんなに渡した」って言ってましたけど、昔だったら粗い状態ですぐ渡されても「どうしたらいいんだろう」となっていたようなところも、形にできるようになったなと思います。
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Junsoo Lee(Gt.):

バンド内外で、今のところ最も心理的安全性が担保された環境でできたなって(笑)。今言ったようにお互いのことがもっとわかるようになってきたのと、僕らがやりたいようにできる自由な制作環境だったのがこれまでとの一番大きな違いで、そこが(軽やかな印象に)起因しているかなって思います。
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Kento Yoshida(Ba.):

『Swimmer』は初めてそれ(不安要素)がなくて。外からの要因もプラスなものだったし、それを取り入れてバンドで完結させて、バンドで育てたみたいなのはたぶん初めてかもしれないっていう。
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Yusaku Nakano(Dr.):

これまではレコーディングまでの準備期間が長かったんですけど、今回はプリプロ1回、レコーディング1回で録るっていう流れを全曲でやってて。その場の演奏で起きたことを大事にするというか、偶然出た音も「それはそれでいいじゃん」っていう姿勢ができてきていると思うので、そういう意味でも今の自分たちが詰まっているような作品になりました。

「Frohsinn ’82」のキックはトトロの上にメイが寝てるイメージ

ーアルバムのテーマはなんでしょうか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

“Death”と“Love”が大まかなテーマになっていると思います。アルバムを作るのに前作から大体2年かかっているんですけど、その間に祖母の死を経験したんです。それで、お坊さんから「亡くなってから2年間は、落ち込んでもOK。だけど2年経ったら亡くなった人に対して“もう大丈夫だよ”と言って、自分の人生を続けなくちゃいけない」と言われて。そういうこともあったので、アルバムを通して徐々に“死別”というものを受け入れていくイメージになってるなと。
 
前半はテーマにしている出来事と曲を書いた時期が近い曲たちで「なぜこんなことが起きてしまったのか」と受け入れる準備ができていなかったり、自分を責めてしまったりしていて、後半はもう少し光が見え始める感じになっているなと。“Love”をテーマにした曲に関しては、いろいろな別れや出会いがあって、それをリアルタイムで曲にしたので、そういった曲がたまに入っているという。

ー『Swimmer』は、“精神的にも物理的にも水に近い環境で生まれた楽曲が多い”と資料にありましたが、具体的にどういう環境を指しているのでしょうか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

「Blinds」「Cling Wrap」「Amanda K.」以外の“Death”をテーマにした楽曲は、シャワーをしていたり、食器洗っていたり、物理的に水に近い環境で楽曲のアイディアが生まれた曲が多くて。あとは地元が海に近いのと、亡くなった祖母もサハリン(樺太)から神奈川に船でやってきたり、水に関わるモチーフがイメージとしてあったんです。流れに逆らえないものの近くにいたときや、そういう出来事が起こったときに生まれた曲が多かったですね。

ーこれまでの作品は、Johnathanさんがデモ音源とそのリファレンスのプレイリストをメンバーに共有して制作していたそうですね。今回も制作方法は一緒でしたか?

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Shogo Takatsu(Key.):

そうですね。ただ、前作まではもっとリファレンスが多くて「アルバムを作る上で、共通のアルバムを100枚くらい聴こう」ということをやってたんですよ。でも今回は曲ごとに「こういうジャンルを参考にしているよ」っていうのだけがあって、そこまで勉強しない状態で自然に制作に入っていきましたね。

ーデモを受け取ったときの楽曲の印象はいかがでしたか?

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Yusaku Nakano(Dr.):

Björk(ビョーク)はけっこう聴いたよね。
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Junsoo Lee(Gt.):

2ndのときは“オーガニック”っていう明確なサウンドのテーマがあったんですけど、今回はそこまで決まってなくて。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

1・2枚目は、曲の内容は良くも悪くも僕だけのものっていう意識でサウンドをみんなに共有していたので、伝わりやすくするためにリファレンスを多めにしてたのもあるんです。でも今回は、四つ打ちに頼りすぎない、自分(の内面)が踊れるダンスアルバムを作りたいっていうイメージだけがぼんやりあった感じで。プレイリストはあるけど、Junsooさんも「そんなに聴いてない」って言ってたし(笑)。
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一同:

(笑)
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Johnathan Calrissian(Vo.):

2ndのときまでの僕がその言葉を聞いたら「ハ?」ってなってたと思うんだけど(笑)。
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Junsoo Lee(Gt.):

「もう諦めました」みたいな?
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Johnathan Calrissian(Vo.):

いや、違う違う(笑)。そこは全然重要じゃなくて、サウンドは5人で揃えばいいものが作れるのがわかっていたという感じ。そういう意味でも、曲のリファレンスはだいぶ少ないし、渡したものも知ってる曲ばかりだったと思う。
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Shogo Takatsu(Key.):

「お、こういうものか」ってバイブスだけ把握した状態で自然にレコーディング入るみたいな。
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Yusaku Nakano(Dr.):

確かに。2ndまでは「リファレンスのこの曲の音に近づけよう」っていうのが多かったんですけど、今回は「この曲だったらこの音だな」みたいなものが、リファレンスを通さずに想像できて。そこは脊髄反射的な音の作り方をしたなっていう印象はありますね。
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Kento Yoshida(Ba.):

ジョナ(Johnathan)のプレイリストも、1stと2ndは「この曲のこのパートをリファレンスにしたんだな」みたいなのがたまにわかったんですけど、『Swimmer』のプレイリストは違くて。
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Shogo Takatsu(Key.):

もうちょっと概念的だったよね。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

「同じ感情を表現してる曲たち」みたいな。
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Shogo Takatsu(Key.):

そうだね。今作では何曲か、画像とか映画のシーンをリファレンスにして作ったり。ドラム、ベース、ギターはみんなでスタジオでワイワイ録るんですけど、キーボードは全部家でやってて。そのときに部屋でデカいスクリーンに画像を映した状態で作業することもありましたね。

ーどんな画像や映画だったか、お伺いしてもいいですか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

たとえば「Cling Wrap」は、ティム・バートンの映画『ビッグ・フィッシュ』でユアン・マクレガーが黄色い花畑で待ってる瞬間で。映画の文脈に即してそのシーンを表現したわけではないんですけど、あのシーンを見たときに「ハッ」となるあの感じを出したいなと思って、みんなに送ったりとか。
 
あと「Frohsinn ’82」はドラムのキックの存在感を表したくて、『となりのトトロ』でメイがトトロの上に寝てる画像を「こんぐらいキックが欲しいです」って、MIXしてくれているエンジニアの人に見せて(笑)。それを伝えたあとのミックスはめちゃくちゃ良かった。

ー同じ感覚を持っていたんですね(笑)。

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Johnathan Calrissian(Vo.):

ビックリしましたね(笑)。「Gown」も、アメリカのドラマ『ツイン・ピークス』に紫の海みたいな場所があるんですけど、地球上なのかよくわからないその暗い水の雰囲気を出したくてみんなに送ったりしましたね。

ー画像や映画をリファレンスにするやり方は、今回が初めてだったんですか?

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Yusaku Nakano(Dr.):

画像を渡されたことはなかったんじゃないですかね。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

今回は「リファレンスのこの曲っぽい曲を作りました」っていうのが発端ではなくて、どちらかというと「“これを経験したときの自分”を元にしたい!」みたいな感じだったので、サウンドよりはイメージのほうが伝えやすかったのかなって今は思います。

ープレイリストにはビョーク以外にどんな音楽が入ってたんですか。

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Shogo Takatsu(Key.):

どっちかというとエレクトロとか。
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Junsoo Lee(Gt.):

Fred Again..(フレッド・アゲイン)とか?
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Shogo Takatsu(Key.):

Fred Again..、Rosalia(ロザリア)とか、そのあたりが多かったですね。わかりやすい例だと、最近出てきたダンスミュージックが多かったです。Skrillex(スクリレックス)とか。
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Yusaku Nakano(Dr.):

Yard Act(ヤード・アクト)もあったっけ。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

(プレイリストを見ながら)あった。あとJoni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)、Fiona Apple(フィオナ・アップル)、50cent(50セント)、あと映画『アメリ』のテーマとか。こうやって見ると、確かに全曲のリファレンスにビョークが入っている気がしますね。

死別を受け入れ、覚えておくことが残された者の責任

ー今作は、これまで以上に力強いグルーヴが生み出されている印象でした。

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Yusaku Nakano(Dr.):

音源でフルでドラムを演奏してるのは「Final Girl」「Pallas’s Cat」「Infinity Pool」しかなくて。ドラムをプレイしてる自分を曲からあんまり想像できなかったのもあったんですけど、何かしらリズムを作る役割で僕はこのアルバムに参加している感じです。
 
そういう意味では、踊れる音楽、ダンスミュージックのアルバムを作りたいっていうのは最初に聞いていたので「どのビートだったら人は体を動かすか」とか「ドラムにどういう電子のビートを重ねていったら厚みのあるダンスミュージックができるか」みたいなことはずっと考えていましたね。
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Kento Yoshida(Ba.):

ベースで一番こだわったのは音で、2ndと比べたらまったく違う機材を使っているんです。Yusakuも言ってたんですけど、ダンスミュージック+生音をどう融合させるかというところが、よくわからなくて苦戦して。「Johnnivanがダンスミュージック、クラブミュージックをやったらどうなるか」みたいな考え方で、Jamiroquai(ジャミロクワイ)とかをめちゃくちゃ聴いて。
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一同:

そうなんだ、初耳(笑)。
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Kento Yoshida(Ba.):

そう。ノリを意識するとか、グルーヴをどう出せるかとか、音符をどれくらい伸ばすとかは、それぞれの曲で「こんな感じかな?」と思いながらRECに臨む感じでしたね。一番ピュアにドラムとベースでグルーヴを出せたのは「Infinity Pool」で、自然といい感じになったんですよね。
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Yusaku Nakano(Dr.):

「Infinity Pool」は曲順通り最後に録ったんですけど、久々に「リズム隊でレコーディングしてるな」っていう感覚があったよね。曲が良ければそれでいいなと思ってたので、僕はこのアルバムで生ドラムを叩かなくてもいいかなと思ってたんですけど、部屋でベースとドラムのふたりで演奏した「Infinity Pool」でアルバムを締めくくれたのは良かったなって。
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Shogo Takatsu(Key.):

ビートでいうと、アイディアはすでにデモの段階からあったし、キーボードの上モノでいろいろアイディアを加えていくので、それを殺さない範囲でベーシックな打ち込みビートのクオリティアップを意識しました。たとえばキックひとつにしても、今まで使ってなかった仕組みで音を作ってみたり、試行錯誤しながら堅くなりすぎない面白い動きをつけてみたりとか、それがただの打ち込みじゃない感じに繋がっているのかなと思いますね。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

Takatsuさんが一番苦戦したって言ってましたもんね。
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Shogo Takatsu(Key.):

そうだね。僕はクラシック畑でやってきたので、生演奏に(キーボードのサウンドを)馴染ませるほうが得意なんですけど、今回はJohnathanからもらった打ち込みを一緒にブラッシュアップして、そこに最後に(生演奏を)馴染ませるっていう作業だったので、自分の音が浮いちゃって苦戦したんですよね。曲を聴いたら「この音でいけばハマるだろうな」みたいなのが自分の中であるんですけど、それがなかなかハマんなくて。
 
だから、たとえば「Frohsinn ’82」だとクラブミュージックだしあまり細かいことは気にしないようにしたくて、そんなに酒強くないんですけど部屋で飲んだり、あえて自分のコンディションが良くないときにレコーディングしてみたりしました。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

普段完璧だから(笑)。
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Shogo Takatsu(Key.):

っていうか、いろいろ気になるところが見えちゃうから。EDMのライブにも行ってみたんですけど、細かい部分を気にしてる人はフロアには誰もいないなと思って。その感じでいきたかったので、何曲か飲んで録ったみたいな。でも最初は次の日の朝に聴いて「いや、ダメやん…」ってなって(笑)。
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一同:

(笑)
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Kento Yoshida(Ba.):

ちなみにどの曲?
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Shogo Takatsu(Key.):

えっとね…「Frohsinn ’82」「Cling Wrap」「Kayoesque」とか。あとはピアノも自分で生音を大体録音しているので、ノイズが入らないように窓とかもガチガチに閉めて遮断された環境で録るんですけど、「Cling Wrap」はイメージが『ビッグ・フィッシュ』の花畑ということもあって、閉ざされた部屋で録りたくないなって思ったんです。だから近所迷惑にならない範囲で窓を開けて、あえて悪い環境にしてみたり。曲の中ではそんなに聴こえないんですけど、(ピアノの)トラックだけ聴くと鳥の鳴き声とか外の音が聴こえて、楽曲の雰囲気に繋がってるかなっていう。

ーJunsooさんのギターもアルバムの中で存在感があるなと思ったのですが、今作で意識した点はありますか?

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Junsoo Lee(Gt.):

3rdでは初めて、ギターリフやフレーズを僕が80%以上作ったんです。それまでジョナが書いてくれたトラックを元に作ってたんですけど、2ndのときに自分のギターのアプローチが硬く感じて。クラブビートみたいなガチガチなビートを標榜しつつ、ギターは今作のほうが自由に聴こえてくるのは印象としてありますね。

やっぱり自分の作ったリフだから柔らかく弾けたのもあると思うし、さっき「キーボードを生の音に馴染ませるのが大変」っていう話もありましたけど、僕は逆に(アンサンブルで)浮くように提案する発想だったので、楽しかったですね。それが採用されるかどうかは曲によるんですけど、面白いトライができたかなと思います。

ー歌詞のテーマは“Death”や“Love”とおっしゃってましたが、全体的に儚いものに関して描いた歌詞が多いように感じました。Johnathanさんが歌詞の言葉選びで意識したことやこれまでから変化を感じた部分はありましたか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

思いついてから実際にレコーディングするまで、細かい文法や時制は今まで通りいじってたんですけど、各曲のキーになる歌詞は、それこそシャワーを浴びたり作業をしたりしながら、不意に浮かんできたものが多い感じでした。今までだと「この曲はこれについて語ろう」と思って、そこに向かって自分が言葉を探しにいく書き方が多かったんですけど、今回は先に思いついたフレーズがあって「なんで自分はそれを歌ったんだろう」っていうのをあとから分析して。「あ、そうか。僕まだおばあちゃんの“あれ”乗り越えてないのか」みたいに毎曲やって、毎曲泣くみたいな感じでした。

ー歌詞で特に思い入れの深い曲はありますか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

2024年11月(取材時)のJohnathanからすると、「Infinity Pool」はアルバムの最後の曲として作り始めたので、明るく終わらせにいってる感じはあるんです。でも、歌詞で自分なりに表現したのは「(死別を)受け入れてはいるんだけど、完全に乗り越えてもうハッピー。リセットしました」っていうことではなくて。その人がもういないのは事実だし寂しいんだけど、寂しいから泣くというよりは、ここに残されてる人の責任として(その人のことを)覚えておかないとなという。この曲の歌詞を読むと、自分はそう思うなって。

新しい場所で刺激を受けたい。次回作の構想

ーアルバムの中でみなさんが気に入っている曲をお伺いしたいです。

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Yusaku Nakano(Dr.):

「Infinity Pool」ですね。さっき言ったように、この曲では1曲通してドラムをしっかり叩いてベースとグルーヴしてそれを曲の中に残せたので、「やっぱりバンドは楽しいな」と感じられて。あと、歌詞がめちゃくちゃいいなと思ってて、僕自身は英語はそんな堪能じゃないんですけど、最後のセクションはグッとくるので、第三者として聴いても気になるのではないかなと思いました。
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Kento Yoshida(Ba.):

僕は「Kayoesque」ですね。去年の5月ごろに、4〜5曲くらいJohnathanがデモ作ってきて、「アルバムはこういう楽曲でいきたいです」っていうのをスタジオで共有する会があって、この曲も入ってたんですけど、初めて聴いたときにすごくシビれて。カッコよすぎて「なんだこれ?」みたいな。「これ絶対やりたいな」って思ったのがまずひとつあります。

あと、この曲はもともとメインリフでシンセベースが入ってて、そこに生のベースを完全に合わせるっていう修行みたいなことをプリプロとRECでやったんです(笑)。生のものとは音の伸ばし方が違うシンセベースに、生のベースを当てるのはめちゃくちゃ苦労したんですけど、なんとか形になったかなっていう。大変だったけど最終的には良い形で録れたので、お気に入りの楽曲です。
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Shogo Takatsu(Key.):

僕は2曲あって、「Final Girl」と「Frohsinn ’82」ですね。「Final Girl」は、初めてJohnnivanの曲で編曲という形で関わった曲で。Johnathanから渡されたデモが、歌、ドラム、コード感という骨組みだけの状態だったんです。普段なら彼は構成とかサウンドにこだわるほうなんですけど、そのあたりも「(好きにやって)いいッス」みたいに言われたんで、構築という意味だとゼロからやった曲で。僕の色にガラッと変えちゃったので、採用されたらいいなぐらいの気持ちで持っていったら好きだと言ってもらえて。そのままスムーズに制作に入れたので、自分としてはいい経験になりましたね。

「Frohsinn ’82」はさっきも若干触れたんですけど、初めてJohnnivanとしてクラブミュージックみたいなものを作ってみるというところで、一番苦労した曲だったんですよね。シンセがあんまりハマんないとか、自分的に殻を破れないところがあったんですけど、最終的に今のいい形に落ち着いて、Johnnivanでクラブミュージックをカッコよく表現することを学べた曲かなという。次の作品がどうなるかわからないし、まだコンプリートはしてないですけど、ひとつ殻を破れたかなっていう感じです。
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Junsoo Lee(Gt.):

僕は「Gown」。打ち込みのクラブビートの上に生のギターを乗せる作業が一番うまくできてる曲かなと。あと曲としてもビョークを感じるというか。さっきギターに関して“浮く提案”の話をしましたけど、この曲は自分が「こう入れていきたい」っていう生ギターを入れられて、曲に対して一番浮いている印象のギターが弾けたかなという意味で好きです。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

気に入っている曲については別の媒体のインタビューでも聞かれたんですけど、それと違う答えを出します。

ーありがとうございます(笑)。

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Johnathan Calrissian(Vo.):

今日はメンバーのみんながちゃんと“見える”曲を答えようかなと。Junsooさんは前「Final Girl」って言ってたんですけど、今日は「Blinds」にします。
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Shogo Takatsu(Key.):

あ、そういう感じ(笑)?
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Yusaku Nakano(Dr.):

聴いているだけで、各メンバーの演奏してるところが見える曲っていうこと?
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Johnathan Calrissian(Vo.):

そうそう。Kentoさんがさっき言ってた、5曲ぐらいのデモをメンバーに聴かせたタイミングで「この曲たちを自分のソロ楽曲としてやろうと思ってます」って一回宣言してたんです。でも、やっぱりJohnnivanでやりたいなと思って、結局バンドの楽曲にしたっていう流れがあって。みんなからのインプットをもらって「お〜!」ってなる瞬間が今回特に多かったので、この答え方をしてます。めっちゃ長い前置きになっちゃいましたが。

「Blinds」に関しては、Radiohead(レディオヘッド)のEd O’Brien(エド・オブライエン)みたいなフレーズがあって。それは自分だったら思いつかないもので、むしろ「ここに合うフレーズ、これしかなくね?」くらいハマってたんです。なのでJunsooさんは「Blinds」。

で、Takatsuさんは「Space Again」。一番自然体のTakatsuさんのピアノが聴ける曲というか。曲としてもボイスメモの段階より深みが出て、スケッチというよりもちゃんと曲になっている感じがします。完成したテイクもめちゃくちゃ良くて。この曲は最初、ストリーミングだと聴けないけど、レコードには収録されている“Hidden Track”(シークレットトラック)という感じで考えてたんですけど、Takatsuさんが「出来がいいし、自分もサブスクで聴きたいからアルバムに入れない?」って言ってくれて。普段は自分の変なエゴで「いやいや、この曲はアルバムが言いたいことと反する!」「自分たちが入れたいかどうかは関係ないんだ!」みたいなことを考えちゃうんですけど、今回は「確かにいい曲だしな!」と思って、オフィシャルな5曲目として格上げされた感じです。

ベースはKentoさんのお気に入りと被っちゃうんですけど、「Kayoesque」で。デモの段階だとギターもいないですし、ベースも全部シンセベースなんですけど、生ベースを当てることで揺れとか欲しいものが全部ゲットできて。(テイクは)全部却下したわけじゃないよね?
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Kento Yoshida(Ba.):

入ってる。あえてズレてるところを採用したのも、揺れを出すためだよね。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

Kentoさんがデモのベースを再現できるのは、何回も一緒にやってきてるからわかる、と。それにさらにプラスアルファで、Kentoさんがベースを生でやる意味がはっきり見えた曲かなと思います。

Yusakuさんは今回「Pallas’s Cat」にします。録れた音とかドラミングがめっちゃいいっていうのは当たり前なんですけど、一番自分が何が欲しいかわかってない状態で渡して、みんなを引きずり回してしまった曲だったなと思って。この曲は特にビートでそれをやっちゃったなと思います。
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Yusaku Nakano(Dr.):

普段Jonathanはリズムから曲作るけど、そこにちょっと苦戦して、ドラムのリズムをふたりで考えたんですよね。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

そうです。最初はD’Angelo(ディアンジェロ)みたいな“酔ってる感じ”をやりたいと思ったんですけど、いざやってみるとそんなにフィットせず、Yusakuさんも「ん〜?」みたいな反応で。
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Yusaku Nakano(Dr.):

「頑張るけど…カッコいいかな…?」みたいなね(笑)。
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Johnathan Calrissian(Vo.):

で、Yusakuさんが「こんな感じじゃない?」ってシンプルにドラムを叩いたらハマって、「そんなに考えなくてよかったんだ!」って。そういう意味でドラムのグルーヴ感に珍しく僕らしさがなくて。Takatsuさんでいう「Final Girl」みたいに、音色もノリ方もYusakuさんがゼロに近い状態から考えていた感じがするなっていう。

ー冒頭で次作に関するお話もありましたが、『Swimmer』の制作を経て、今挑戦してみたいことはなんでしょうか?

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Johnathan Calrissian(Vo.):

曲より先に「このテーマについて何曲かで語りたいな」っていうのが出てて。曲はまだなんですけど、『Swimmer』で自分が持ってきてないものをみんなが曲に持ってきてくれる作業が楽しかったので、もう少しライブ感のある録り方をしてみたいなっていうのは思ってて。もしかしたら何曲か今まで以上にロックっぽい曲も出てくるかもしれないです。ただ、それと同時にもっとデジタルにディープダイブしていく方向性を突き詰めたいなっていうのもあります。どっちもやっていいかもしれないし、今は白紙なので可能性は無限大ですね。

ー長期的なバンドの目標はいかがでしょうか?

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Shogo Takatsu(Key.):

最初に言ったように、今年初めて海外に行って受けた刺激が作品に影響しているところもあるので、新しい場所に行ってどんどん刺激を受けたいなと。このステージに出たいみたいなのは正直なくて、運と流れと縁かなと思っているので、どこに出てもいいパフォーマンスができる準備をしておくだけかなと思っています。

RELEASE INFORMATION

3rd Album『Swimmer』

CD:2024年11月27日(水)リリース/PCD-25435/¥2,750
LP:2025年2月19日リリース/PLP-7506/¥4,500
〈P-VINE〉

【Track List】
1. Frohsinn ’82
2. Kayoesque
3. Gown
4. Final Girl
5. Space Again
6. Blinds
7. Cling Wrap
8. Pallas’s Cat
9. Amanda K.
10. Infinity Pool

LIVE INFORMATION

<JOHNNIVAN – WE LOVE Vol.2>

2024年12月7日(土)at 東京・下北沢ADRIFT
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET ¥3,500(+1D)
LIVE:Johnnivan / Salmon Pink(Opening Act)
DJ:harinezumi

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Johnnivan(ジョニバン)

2018年に結成された日・米・韓の多国籍ロックバンド。

Johnathan Calrissian(Vo.)とShogo Takatsu(Key.)を中心に、早稲田大学の音楽サークルで出会った5人によって結成。東京のライブハウス界隈に現れ、たちまち注目を集めると、<SUMMER SONIC>や韓国の<DMZ Peace Train Music Festival>など国内外大型フェスにも出演し話題に。独特な作風と、肉体的かつハイクオリティなライブパフォーマンスが多方面から高い評価を獲得し、日本のインディシーンでは異彩を放っている。
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