“良い音楽”を作ることは世界の人を救う。S.A.R.がメジャー1st EPを経て抱いた覚悟と野心

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文: riko ito  写:上村 窓   編:riko ito 

SOUL、R&B、HIP-HOP、JAZZといったジャンルから色濃い影響を受けつつ、独自のサウンドを生み出す6人組オルタナティブクルー・S.A.R.が、2025年4月25日にメジャー1st EP『202』をリリースした。DIYで実験的に制作することにこだわった今作の制作を経て、さまざまな発見や心境の変化があったという。そんな最新作について、メンバーに話を聞いた。

日本の音楽シーンで異彩を放つ6人組・S.A.R.。“オルタナティブクルー”を標榜する彼らは、往年のSOUL、R&B、HIP-HOPといったジャンルからの影響を感じさせつつ、“今っぽさ”も交えて独自の音楽へと昇華させている。大学のジャズ科の出身者を中心に構成され、2018年より活動を開始。2024年3月発表の1stアルバム『Verse of the Kool』は耳の早いリスナーなどから注目を集め、2025年にポニーキャニオン内の〈IRORI Records〉からのメジャーデビューを発表した。

そして、2025年4月25日にメジャー1st EP『202』をリリース。各メンバーが実験を重ねて制作を進めたという今作は、ほどんどの収録曲を宅録で制作。Eno(Ba.)が制作の中心を担ったそのサウンドは、これまで以上に緻密で重厚で、自分たちの音楽で日本のシーンを変えていこうという意思も強く感じられる。さらに、収録曲の「New Wheels feat. Shing02」では世界で活躍するヒップホップ界のレジェンド・Shing02を迎え、新たな化学反応でリスナーを驚かせた。

今回は本作についてはもちろん、メジャーデビューを経て抱いた覚悟や、音楽を作ることへの意義や野心についても語ってもらった。

※Attieは体調不良により不参加

メジャーシーンで活動することで芽生えた覚悟と責任感

ーメジャーデビューおめでとうございます! 率直に今の心境をお伺いしてもよろしいですか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

あんまり実感はなくて。
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santa(Vo.):

最近スケジュール感がタイトになったとか、対応しなきゃいけないことが増えてきて。それでやっと実感が湧いてきていますね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

あとは、ライブのときに楽屋にお菓子を用意してもらえることとか(笑)。
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一同:

(笑)
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Eno(Ba.):

それも含め感謝の機会が増えましたね。そのこと自体に一番感謝しています。
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santa(Vo.):

そうだね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

ステージで「ありがとう〜!」って叫びたいもんね。気持ち良いんだろうなぁ。

ー活躍の幅を広げるのを拝見していて、S.A.R.のみなさんは音楽だけでなく総合的にカルチャーを作っているような印象を抱いたのですが、親近感を感じるアーティストやクリエイターはいらっしゃいますか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

僕らのジャケとかを作ってくれてるFukaya(Yuki Fukaya)っていうヤツがいて。漫画も描くアーティストなんですけど、そいつとは長く一緒にやってて、親近感がありますね。僕らのライブの物販でも彼が描いている『Hollow Moon』っていう漫画を売ったりしていて。クリエイターとしての姿勢というか、生活の仕方やクリエイティブなものが湧き出るタイミングとか、空気感も似ている感じがします。そういうところで共鳴するんですよね。
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santa(Vo.):

映像を一緒にやらせてもらってるShunくん(Shun Takeda)も同世代ですけど、素直にカッコいいと思ったものを一緒に作れている感じがあるよね。
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Eno(Ba.):

アーティストでカッコいいと思うのは、1年前くらいに対バンしたHIMIですね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

みんな好きだよね。

ーメジャー1st EP『202』を制作するにあたって、1stアルバム『Verse of the Kool』から心境面で変化を感じた部分はありますか?

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Eno(Ba.):

今作は〈IRORI Records〉に所属してから出してきた曲を収録したEPなんですけど、動き方をあまり理解していない状態で作り始めたので、環境が変わったことやタイトなスケジュールにすごく食らっちゃって。なので心境としては「大変でした」っていう感じですね(笑)。
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Taro(Key.):

気づいたら一週間以内に完成させなきゃいけない、みたいな感じであっという間に終わっちゃって。
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santa(Vo.):

でも、このEP自体、個人的なアプローチとしては実験というか、「もっとこうしたいな」みたいなものも見えたEPではあって。大変だったんですけど、これを経て次に出すアルバムを作るのが楽しみになりました。ステップアップするために、環境に体を慣らすっていう意味でもいい経験だったなって、割とポジティブな気持ちです。次に繋げられたら良いなっていう気持ちが強いです。
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Imu Sam(Gt. / MC):

「腹括ってやらなきゃいけないぞ」っていう覚悟が出てきたのかなと自分では思います。そういう思いがEPを作ってる最中から沸々と湧いてきましたね。ワンマンにもお客さんがたくさん来てくれたんですけど、全員S.A.R.を観に来てくれてるわけじゃないですか。その人たちに恩返しというか、ありがとうを伝えられたらなと思いましたね。
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may_chang(Dr.):

アルバムを出したときよりも責任感が芽生えて「ちゃんとやらないとな」ってより思うようになったよね。

宅録と実験にこだわった最新EP『202』

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may_chang(Dr.):

EPの収録曲はほとんど僕の家で作ったので、タイトルは僕の家の部屋番号で。家主という立場なので、一生懸命掃除したり、なるべくみんなが過ごしやすいようにしたというか(笑)。それはそれで疲れはしましたけど、制作中も少し俯瞰できたというか、家主としての心が芽生え始めました(笑)。
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Imu Sam(Gt. / MC):

本当に毎回模様替えしていて(笑)。机の位置が来るたびに変わってたよね。
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may_chang(Dr.):

普通の1LDKに男の子6人が集まるんでパンパンなんですよ。そういう背景もあって、タイトルどうしようって悩んでたときに、santaが「『202』でいいんじゃない?」って言って。それでみんな納得しましたね。
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santa(Vo.):

思いつきだったんですけど、他にシンプルで名前がスッと入ってくるタイトルがないなって思って。家で録ってたことも想像できるし。なので、宅録っていう意味合いが強いですかね。

ーとなると、EPはテーマがあってスタートしたわけではないんですかね?

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may_chang(Dr.):

宅録でやりたいっていうのはそもそもあったんですけど、アルバムを作る予定だったのに、びっくりするくらい上手くいかなくて。さっきsantaが言ってたように、次のアルバムに向けて音楽的な実験を重ねてたんですけど、リリース日は決まってしまっている状態で。(曲数的に)アルバムにまとめられなくなったので、EPっていうパッケージングにした経緯があります。実験的っていうのも結果を見たらそうだったという感じで、今回に関しては最初から計画があったわけではなく。行き当たりばったり系音楽です(笑)。

ーもし次のアルバムを聴いたら「このEPの実験はここに繋がってるんだ」って思う瞬間があるかもしれないですね。宅録を含め、DIYで制作したかったのには何か理由があったのでしょうか。

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Eno(Ba.):

以前までも最高の設備で録らせてもらえてはいたんですよ。そこで録ったら最高の音になりはしたんですけど、どうしても「HIP HOPじゃないな」って感じた部分があったんです。そもそも「スタジオじゃなくて宅録もやってみたい」っていう思いもあったし、メジャーデビューのタイミングで環境がまるっきり変わったことも相まって、基本的には家でやることに決めました。

ーいろんな実験を重ねたとおっしゃっていましたが、サウンド面で具体的に試してみたことなどがあれば教えていただきたいです。

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Eno(Ba.):

Shing02さんにフィーチャリングしてもらった5曲目の「New Wheels (feat. Shing02)」以外は、ドラムは全部打ち込みで。それは前と違うところですね。レコーディングも全部家でやりましたし、スタジオに行かないで家で完結するみたいな。「New Wheels (feat. Shing02)」だけはエンジニアさんに入ってもらいましたけど、それ以外は自分たちでやる形をとりました。
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Taro(Key.):

前はスタジオに入ってみんなでセッションをすることもあったんですけど、それも今回は完全に家の中でやっていろいろ試行錯誤する感じでしたね。

Taroさんとmay_changさんは、サウンド面で挑戦したことはありましたか?

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Taro(Key.):

前のアルバムは自分のピアノのコンセプトとして“ループ感”というものが結構あったんですけど、EPはそういうものからなるべく外れてみようと思って。ストーリー性をつけるように、どんどん変化していくイメージで弾きました。「Back to Wild」のピアノもそうだし、「New Wheels (feat. Shing02)」の歌とラップの切り替わるところとかも絶妙に変化するようにしています。
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may_chang(Dr.):

5曲目以外の打ち込みは、Enoがパターンを作ってきてくれたんです。なので、制作方法というよりも「生のバンドサウンドでやったときにどういうふうに表現できるか」みたいなことにトライしているところです。

ーライブでは音源通りのタイム感にするのか、それともよりグルーヴィにするのか、どちらのパターンが多いのでしょうか。

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may_chang(Dr.):

音源に寄せる感じではないので、どちらかと言えば後者ですね。大体の細かいフレーズはあるんですけど、S.A.R.はその日のバイブス重視なので。楽曲の良さもちゃんと残しつつ、良いバランスを取れるように頑張っています。

ー歌詞を書かれているおふたりは、今作で変化を感じたことはありましたか?

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santa(Vo.):

今までと比べて、意識的に日本語を多めに使おうみたいな感じでは作ってました。前回のアルバムは英語多めだったんですけど、元々日本語を使いたくないってわけではなくて、自然に出てくる言葉が一番いいと思うので、前も日本語が出てくれば日本語を使っていたし。
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Imu Sam(Gt. / MC):

「日本語をちょっと多めにしたほうが伝わりやすいかな?」とかは、今回は潜在意識にあったかもね。
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Eno(Ba.):

「juice」が初めて日本語を増やそうと意識した曲なんですけど、この曲を作ってたときはNewJeans(現:NJZ)に感動しすぎて、「今の俺らのモードはNewJeansだな」っていう話をしていて。日本語と英語を混ぜるっていうのは、韓国語と英語を混ぜるNewJeansから着想を得た部分もあると思います。

ーそんなふうに日本語と英語を良いバランスで混ぜていくことによって、海外の人が聴いたときに「日本語も気持ちいいんだな」って思ったりするかもしれないですしね。

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santa(Vo.):

もちろん楽曲によると思うんですけど、海外の人からしたら日本語のものが新鮮かもしれないですし。母音の数も違うし、日本語ってやっぱ独特だから。でも、聴いてきた音楽も英語のものが多かったから、難しかったんですよね。日本語を無理やり自分の中で考えていっても自然に聴こえないというか。でも、そういうのも気にしなくて良いかな、ラクにやってみようっていう感じもありました。

ー歌詞は耳あたりの良さや語感を重視して作られている印象なのですが、歌詞を書く際は意味よりも音のほうを重視されていますか?

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santa(Vo.):

そうですね。自然に出てきたフレーズや音があって、それがちゃんと文章として成り立ってなかったら後で単語を入れ替えたりしてます。お風呂とか車とか、そういう場面で考えることが多かったですね。1曲目の「Side by Side」は車の曲なので、ドライブ中に考えたり。小さめな空間に入ると余計な情報がなくて、考え方がシンプルになるからかもしれないです。

ーsantaさんとImu Samさんで歌詞のテーマを相談されたりすることもあるんですか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

しますよ。それこそmay_changの家のベランダに出て、タバコをスパーって吹かしながら「この曲どんな感じなの?」とか聞いて。それで話してるうちにめっちゃいいアイデアが出たりするんだよね。
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santa(Vo.):

大まかなものは自分が作って、それをImu Samに見せて、ベランダでちっちゃく音を流しながら、アドバイスをもらうみたいな感じですね。

ーImu Samさんは、ご自身のパートを書く際にインスピレーションを受けているものはありますか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

ラップはそのときのムードとか考えてることが反映されますね。書く内容は、気持ちのベクトルが強ければ強いほど入り込みやすくて、そういうきっかけみたいなものを日常で探してるところがあります。たとえばですけど、かわいい子とか(笑)、キュンとしたものに気持ちを強く向けて、それをめちゃめちゃ抽象的にして歌詞にすることが多いですね。それ以外だと、制作とかライブをやるなかで思ったり、感じたり、決意したりしたようなことを盛り込んで、その気持ちに乗せて書いたりもします。あとはサウンドとリズムとノリ、みたいな感じです。

RECまで半信半疑で進んだ制作。Shing02、御厨響一らとの共演で生まれる化学反応

ー5曲目の「New Wheels (feat. Shing02)」は、フィーチャリングにShing02さんを迎えられていますが、出会いのきっかけやコラボに至った経緯を教えていただけますか?

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Eno(Ba.):

僕は、中学生のときに音楽を作り始めたんですけど、そのきっかけがShing02さんが企画してたRemixコンテストだったんです。初めて音楽を作って送って、ご本人からもお返事をいただいたりしていて。そこから十数年経てS.A.R.の活動をするなかで、「フィーチャリングしてもらえたらヤバいんじゃない!?」「ダメ元でDMを送ってみよう」ってノリになったんです。そしたら「今ちょうど日本にいます。打ち合わせしますか?」って返事が来て。そのときは本当に了承してくれているのかわからなかったんですが、気づいたらスタジオの日も決まってて、なぜかコラボできることになりました。なので計画とかもなく、よくわからないままで。

ーすごい話ですね…。打ち合わせで初めて対面したときは、どういう話をされたんですか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

それがふんわりしていたんですよ。紅茶を注ぎながら「君は歌詞を考えるときにどんなことを考えているんですか?」みたいなことをいろいろ聞かれて。みんなびっくりしながら話をしていたんですけど、その流れのまま「スタジオが空いてるのが明後日だから、明後日やりましょう」みたいな感じになって、その日はそのまま解散したんです。
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Taro(Key.):

当日スタジオに入るまで全然実感がなくて。夢なんじゃないかっていう。
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Imu Sam(Gt. / MC):

「本当に来てくれるのかな?」ってね。

ー打ち合わせで大体の曲のイメージを共有して、具体的に制作を始めたのはスタジオに入ってから?

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Eno(Ba.):

そうですね。土台となるトラックはあったんですけど、ループ系の曲だったのでまず楽器隊だけ録ってから、その音源をずっとループしていて。それを聴いてその場でShing02さんが歌詞を書いてました。Imu Samとsantaにも歌詞とか発音のディレクションをしてくれたよね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

書くのもラップを入れるのもめっちゃ速かった(笑)。「こういうイメージで書いてるんですけど」みたいな話をしたら、いろいろなアイデアとかアプローチを提案してくれて。タイトルも元々「New Wheels (feat. Shing02)」じゃなかったんですけど、輪廻についてだったり、人生とか生活とかの、いろんなものがサイクルになってるっていうことだったりを歌詞のテーマにしていると伝えたら「『New Wheels』がいいんじゃない?」っていう話になって。

ーShing02さんと一緒に制作されてみて、気づいたことや新たな学びはありましたか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

シンプルに人柄とか生き様がめちゃめちゃカッコ良くて、感化されましたね。説明するのが難しいんですけど、纏ってる空気感がすごく独特というか。
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may_chang(Dr.):

あんまり出会ったことのないタイプの不思議な方で。でもブースに入ってラップしたら「あ、Shing02だ…!」って、やっと実感するというか。

ーEP全5曲のなかで、みなさんが特に気に入っている楽曲はありますか?

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santa(Vo.):

僕は「New Wheels (feat. Shing02)」ですかね。シンプルにラップのパートが気に入っていて。どうやって録っているかを知っちゃっているので、聴くたびに「すごかったな」ってシチュエーションを思い出して感動します。
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Taro(Key.):

制作時の印象が強いので、僕も「New Wheels (feat. Shing02)」ですね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

わかる。
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may_chang(Dr.):

僕は「Back to Wild」ですね。この曲のMVで、僕が前やってたバンドのメンバーだった御厨響一鋭児ConceptSkid)をキャストに起用してて。みんなでMVの内容について話していたときに「響一いいんじゃない?」って話になったので、連絡したら二つ返事で「やるやる!」って言ってくれました。撮影が合計3日間あって、いろんなロケーションに行ったり、手が込んでたりしていて、今までのS.A.R.の映像作品のなかでも一番カロリー高めなんですけど、みんなで作ってる感じがすごく楽しくて。それで映像もめちゃカッコいいので、そこも気に入ってます。

ーキャストとして起用したいと思ったのは、歌詞の世界観が御厨さんの人物像に合っていたからですか?

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Imu Sam(Gt. / MC):

「Back to Wild」って“自然に還る”っていう意味で。ある1人の男が都会の喧騒から離れて、だんだん自然に還っていくというストーリーなんですけど、“自然に還る”ってどういうことなのかを考えて。「めっちゃ解放された状態で、ある意味イカれちゃう感じ」「マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976)みたいな?」っていうふうに話をしていたんです。それで『タクシードライバー』の主人公みたいなヤツいないかな?って考えていたらmay_changが「響一がいいんじゃない?」って言って。メンバーも撮影について行ったんですけど、「やっぱり響一に頼んで正解だったね!」って盛り上がりました。
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may_chang(Dr.):

自力で生きられそうな人がいいなって思ってたんです。文明に頼らないというか。響一ってそんな感じがするし、バチッとハマりましたね。童心みたいなものも感じるし、いろんなものに対してピュアな姿勢も、この作品にマッチしてるなと思います。

本当のことを言い続けるのは難しいけど、嘘をつかないことはできる

ーEnoさんは気に入っている曲はありますか?

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Eno(Ba.):

全曲同じだけ一生懸命にやったんですけど、「juice」っていう曲が一番時間がかかって。作っていた当時の2024年だからこそできるサウンドとリズムを、最新技術を駆使して作りました。

ー「2024年だからこそできるサウンド」とは、具体的にどういうものなのでしょうか?

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Eno(Ba.):

今回は打ち込みで制作した曲がほとんどなんですけど、打ち込みって人間味を感じなくさせるようなところがあると思うんです。だけど、「juice」はドラムをまったくループさせてなくて。ジャズとかを聴いてると、プレイヤーに感情移入する(人間味を感じる)瞬間ってあるじゃないですか。たとえば「今こう考えているから、ピアノのバッキングに対してこういう音を出した」みたいな。そういう基準で音の位置を全部ズラして、リスナーが音の会話を感じながら聴けるようにしたくて。

そういった体験をしているときって、逆に音楽が聴こえなくなってしまっているかもしれないんですけど、音楽に新たな発見を見出すことができているという意味では、まさにその聴こえない瞬間こそが音楽なのではないか、と自分は思っているというか。

ー哲学ですね…。今回のEPでは、そういった緻密な作業を納得するところまで持っていくことはできましたか?

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Eno(Ba.):

そういう“こだわり”も、リスナーからすれば一つの情報でしかないということに気づいたんです。他にも時間をかけなきゃいけない情報があって、一つに固執しすぎても、どうでもいい人にとっては大差ないことなので、バランスが大事なんだということを学びました。今回の制作を経て、まだまだできることががあるんだなって再認識した感じです。

ーS.A.R.は自分たちのペースで自由に活動されつつも、結果的に唯一無二の個性を表現されている気がしていて。ご自身では、ここまで活動されてきて見えてきた“S.A.R.らしさ”やこだわりなどはありますか。

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Imu Sam(Gt. / MC):

それがわからなくて。「S.A.R.らしいね」って言われると「あ、そうなんだ」とはなるんですけど。
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Eno(Ba.):

一番わからないよね。鏡で見てる自分とか写真で撮られている自分に違和感がある、みたいな。
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Imu Sam(Gt. / MC):

「これが俺たちらしい」って考えちゃうと、良くない気がするよね。
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Eno(Ba.):

質問に対しては完全に逃げですけど(笑)。

ーそんなことはないです(笑)。制限を儲けずに本当に好きなことをやるのを大事にしている、ということですかね。

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Eno(Ba.):

そうですね。あと、嘘をつかないことは大事だと思います。クリエイションはもちろん、あらゆることにおいてですけど。本当のことを言い続けるのは難しいけど、嘘をつかないことはできるなって。基本冗談しか言ってないけど(笑)、音楽に対しては嘘をつかないっていうのは一貫して考えていることなんじゃないかなと思います。

ーS.A.R.の今後の活動については、メンバーで話し合いをされたりしますか? それとも自然と全員が同じマインドに向かっていくという感じなのでしょうか。

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Imu Sam(Gt. / MC):

みんなの姿勢を見ていたら伝わってくるから、そこに自分のマインドも合わせていくスタンスですね。
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Eno(Ba.):

「ヤバいアルバムを作ろう」っていうことは話してます。
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Imu Sam(Gt. / MC):

アルバム作りはワクワクしていますね。今は結構そのことが頭の大半の割合を占めていて。

ー次作のアルバムでどんな音楽を目指しているのか、現状言える範囲で構わないので、教えていただけますか?

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Eno(Ba.):

壮大な話をすると、音楽には人の意識とか生活のすべて、政治をも変える力が良くも悪くもあると思っていて。そしたら“良い音楽”を作ることは世界の人を救う、意義のあることなんだってわかってきたというか。そういったことを考えていく中で、自分たちの文化だったり生きてきた環境、パーソナリティ自体に誇りを持てたら、もっと良くなるのにって思う瞬間がすごく多くて。

ー“良くなる”というのは?

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Eno(Ba.):

たとえば、これは自らの反省も含めてなんですけど、誰かに憧れたときに表面ばかり真似してしまったりすると思うんですよ。それが無駄だとは言わないんですけど、そうじゃなくて自分たちの生きてきた環境だったり、辿ってきた道こそが尊いというか、それ自体を誇りに思えればもっと人はより良くなるのにって。

ー個々のアイデンティティを落とし込んだような音楽を作りたいということでしょうか?

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Eno(Ba.):

僕は日本で生まれて日本で生きてきたけど、洋楽ばかり聴いてて日本の音楽をあまり聴いてこなくて。あるときまで一括りに「日本の音楽ってカッコよくない」っていうイキリ方をしてしまっていたんです。S.A.R.も「洋楽みたい」って言われることもあって、それは褒め言葉で言ってくれてるんですけど、それって価値基準が“洋楽っぽいから”であって。ある種、自分たちの文化とか自分たちの身からでたものではなくて「洋楽っぽくて良いよね」って言われてるのって「じゃあ誰のための音楽なんだろう」ってすごく思うんです。要はコンプレックスが深くなるだけなんじゃないかなって。

僕も心のどこかで日本の音楽をあんまりカッコよくないものって一括りにしてたんですけど、日本の音楽の歴史を勉強していくとカッコいい音楽はいくらでもあるし、それぞれの良さがあるなっていうのもわかりまして。この構造を作る手伝いというか、日本の文化に対してのアプローチができれば人のためになるかなと思ったんです。

ー邦楽と洋楽という括りではなく、自分たちらしさを落とし込んだ音楽が結果的に“良い音楽”として受け入れられていって、それが日本の音楽になっていくというイメージですかね。

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Eno(Ba.):

限りある与えられたエンターテインメントの中で楽しむのはすごく大事なことだけど、井の中の蛙のようになってしまうこともありますし、それはアーティストや音楽業界の責任だと思うので。一時的にはいいんですけど、やっぱりどんどん先細りしていくようにしか思えなくて、アーティストやマーケットの思考も、ちょっとでも延命するためのアプローチをする方向になっていく。その構造の一寸先は闇なので、少しでも明るい未来になるように大義を持ってアルバムを作りたいですね。とは言っても、まだ構想は僕の頭の中でしかできてないんですけど…でもできると思っています。もちろん世界を変えるつもりでやりますけど、それで世界が変わるかはさておき、人に良い影響を与えたいですね。
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Imu Sam(Gt. / MC):

「絶対にそれをやる」という気で、心持ちはバッチリです。
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may_chang(Dr.):

まだ誰も聴いたことのないものができそうだよね。

RELEASE INFORMATION

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Major 1st EP『202』

2025年4月23日(水)配信リリース
Label: 〈IRORI Records / PONY CANYON〉

Track List:
1. Side by Side
2. Back to Wild
3. Karma
4. juice
5. New Wheels (feat. Shing02)

▼各種ストリーミングURL
https://lnk.to/SAR_202

TOUR INFORMATION

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202 : traveling without moving

◼︎大阪公演
2025年5月17日(土)at 大阪・心斎橋Music Club JANUS
OPEN 17:30 / START 18:00

◼︎東京公演
2025年5月23日(金)at 東京・恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET:¥4,500(+1D)

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S.A.R.(エス・エー・アール)
音楽大学のジャズ科の出身者を中心に構成された6人組オルタナティブ・クルー。メンバーは、santa(Vo.)、Imu Sam(Gt. / MC)、Eno(Ba.)、may_chang(Dr.)、Taro(Key.)、Attie(Gt.)。 SOUL、R&B、HIP-HOP、JAZZなどをベースにしながらも幅広い音楽性を持ち、音源のみならず映像、 アートワークなどあらゆる制作物を自身で手掛けている。

2024年3月27日に自身初となる1stアルバム『Verse of the Kool』をリリース。同年4月に東京・渋谷TOKIO TOKYOにて開催した初のワンマンライブ<Kool Theory>は、チケットを即完させた。

さらに、2025年1月に行った2度目のワンマンライブ <Return of Kool Theory>にて、ポニーキャニオン内〈IRORI Records〉からのデビューを発表。同年4月25日にメジャー1stEP『202』をリリースし、5月に自身最大規模となる東阪ワンマンツアー<202 : traveling without moving>の開催を控えている。
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